第581回
カネはいらないのに銀行に押し入る男

先日、北京の中国農業銀行の支店に、
20歳前後の男が押し入る事件が起きました。
男は女性客に刃物を突きつけましたが、
自動小銃を持った警官隊が到着すると、
あっけなく警官に取り押さえられたそうです。

目撃者の話によれば、
男はふらふらと銀行の貴賓室に入ると、
いきなり服の下から
長さ30cmあまりの刃物を取り出し、
ソファに座っていた女性客の首に突きつけました。
女性客が
「持っているお金を全部あげるから助けて!」
と懇願すると、
男は「カネはいらない」と言ったそうです。

逮捕された男は動機について、
「彼女とうまくいかなくなったのでやった」
と供述しているそうです。

私はこのニュースを見て、
「いよいよ中国も怖いことになってきた」
と思いました。
このあっけなく逮捕された男の
どこが怖いのかというと、それは、
「カネはいらない」と言ったところです。

中国は日本よりずっと治安が悪いです。
しかし、従来の中国の犯罪がわかりやすかったのは、
犯罪の動機のほとんどが、
カネ目当てであることでした。
ですので、中国で犯罪から身を守るには、
怪しい人がたくさんいる場所にいかない、とか、
人前で財布を広げない、とか、
対策を打つことが可能でした。

一方の日本の犯罪は、
もちろんカネ目当ての犯罪も多いのですが、
「自分の娘が死んだのに、
人の家の子供が生きているのが悔しくて殺した」とか、
「仕事がうまくいかないので、
むしゃくしゃして人を殺した、誰でもよかった」とか、
そういう予測不可能な犯罪も多いような気がします。

今回、この男が、
彼女とうまくいかなくなったことを理由に銀行に押し入り、
「お金を全部あげるから助けて」と懇願する女性客に対して、
「カネはいらない」と言ったことは、
中国が徐々に豊かになり、
日本のような予測不可能型犯罪を発生させるような
環境が整いつつあることを示しているのではないでしょうか。

カネはそこそこあるけど、
人生がうまくいかないから、
銀行に押し入る、人を殺す。

貧困は犯罪の温床と言われますが、
豊かになっても犯罪は起こります。
むしろ、社会が豊かになってからの犯罪のほうが、
人の心が絡んで動機が複雑になる分、
予測不可能で怖いのではないかと思います。


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2006年7月10日(月)

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