第623回
安倍首相の「あいまい」作戦

10月8日(日)、日本の安倍首相が北京を訪れ、
人民大会堂で中国の胡錦涛国家主席、温家宝首相と
相次いで会談しました。
首脳会談のために日本の首相が訪中するのは
2001年10月の小泉前首相以来5年ぶり、とのことです。

中国政府はこの5年間
「日本の首相が靖国神社参拝自粛を決断しない限り、
首脳会談はあり得ない」としてきましたが、
安倍首相は「行くか行かないかは言及しない」という
「あいまい」作戦を選択、これに対し中国側は
「安倍首相は参拝しないと確信するに至った」として、
靖国問題については「あいまい」なまま、
今回の首脳会談が実現しました。

「参拝する」と言っても、
「参拝しない」と言っても、
どこかで角が立つ。
ならば「する」とも「しない」とも言わず、
「あいまい」なままにしておけば、
角は立たない...か。

なるほど...。
世の中には「あいまい」なままにしておいた方が
よいこともあるんですね。

この辺のメンタリティーは
同じアジア人である中国の人たちも理解できるようで、
8日付の中国共産党機関紙「人民日報」は、
「智者は大勢に応じて事をはかる」というコラムを掲載し、
安倍首相が靖国神社参拝を公然化しなかったことを
高く評価しています。

これがアメリカが相手だったら、
こうはいかなかったかもしれません。
現在、日本はアメリカと
非常に良好な関係にありますので、
そんな心配はいりませんが、
アメリカの他の国に対する外交姿勢を見ていると、
「あいまい」を許さず、白黒をはっきりさせたがる
欧米人の気質が色濃く出ているように思います。

これまで中国政府は江沢民前国家主席が唱えた
「靖国神社参拝など歴史問題の解決なしに
両国関係の発展はない」という
「歴史入口論」を堅持してきました。
しかし、最近の江沢民前国家主席の
影響力低下を背景に、胡錦涛国家主席は
「関係発展の中で問題を解決する」という
「歴史出口論」への転換を鮮明に打ち出しています。
こうしたことも、今回、中国側が
安倍首相の「あいまい」作戦に
乗ってきた大きな要因の一つです。

今回の首脳会談を契機に、日中関係が大幅に改善し、
東シナ海ガス田問題や尖閣諸島問題など、
山積している日中間の問題が
どんどん解決していくようなことになれば、
今回の安倍首相の「あいまい」作戦は
大英断として日中外交史に
名を残すのではないでしょうか。


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2006年10月16日(月)

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