第647回
カメの歩みの人民元

昨年の前半まで「人民元の切り上げ」は
世界経済の中で、最もホットな話題でした。

アメリカは不当に安い人民元に支えられた
中国製品の流入によって、
自国の産業が壊滅的な影響を受けているとして、
中国に対し強硬に人民元の切り上げを求め、
日本人は「これから人民元は大幅に切り上がる」ということで、
日本円や米ドルの資産を人民元にシフトすべく、
中国の銀行に人民元の口座を持とうとしたり、
中国の不動産に投資したりしました。

しかし、2005年7月に中国人民銀行が、
人民元の対米ドルレートを約2%切り上げた後は、
「人民元の切り上げ」は話題にも
上らなくなってしまいました。
人民元で大儲けできると考える人はほとんどいなくなり、
人民元の切り上げを見込んで中国の不動産を買った人は、
政府の規制や投機筋の動きによって、
人民元の切り上げ幅よりもはるかに大きな幅で乱高下する
不動産価格に翻弄されました。

みんなから忘れ去られてしまったかのような人民元ですが、
実はその後も「ウサギとカメの競争」のカメのように、
ゆっくりとゆっくりと着実に切り上がりを続け、
今回、ついに香港ドルに追いつきました。

香港ドルは1米ドル=7.75-7.85香港ドルの範囲で変動する、
米ドルペッグ(連動)制を導入しています。
2005年7月以前の人民元は、
1米ドル=8.28人民元の固定レートでしたので、
当時香港に行くと、たいだい
「100香港ドル=105人民元」というレートで
兌換がされていました。

これが2005年7月の約2%の切り上げ後、
人民元は管理フロート制の導入により
16カ月かけて約3%上昇、
切り上げ前と比べると人民元は対米ドルで
約5%上昇したことになり、
5%高かった香港ドルに追いつくことになったのでした。

先月末には、中国本土の銀行での現金交換レートが
「100香港ドル=99.87人民元」と
香港ドルと人民元の価値が逆転する現象も起きました。
人民元は今後も上昇が続くと見られており、
香港ドルが幅広く流通する広東省深セン市では、
香港ドルでの支払いを拒否する商店が出てきているそうです。

カメの歩みでゆっくりとながら
着実に切り上がる人民元。
一気にドカンと大儲けできるわけではありませんが、
長期的な視点から見れば、
やはり、手持ちの資産は人民元建てに
換えておいた方がよいのかもしれません。


←前回記事へ

2006年12月11日(月)

次回記事へ→
過去記事へ
ホーム
最新記事へ