第654回
中国とバチカンのビミョーな関係

宗教指導者というのは時として、
国家指導者よりも強大な権力を持つことがあります。
全世界に10億人以上いる、と言われている
カトリック教徒の頂点に立つ、
ローマ教皇・ベネディクト16世も、
そうした宗教指導者の1人です。

ベネディクト16世率いるローマ教皇庁・バチカン市国は、
ヨーロッパで唯一、台湾と外交関係があります。
これだけ世界に影響力のある宗教団体が台湾と国交がある、
ということは、中国政府にとっては
台湾統一に当たっての大きな障害となります。
このため、中国にとって、バチカンとの国交樹立は、
非常に重要な政治課題なのです。

一方のバチカンも、アジアの大国であり、
「地下教会」も合わせると1,300万人もの
カトリック教徒を擁する中国での布教活動再開に、
意欲を示しています。

両者はそれぞれの思惑で、
国交の樹立を模索していましたが、
今年4月に中国政府の公認宗教団体である
「中国カトリック愛国会」が
独自に2人の新司教を任命したことにより、
国交樹立交渉は暗礁に乗り上げてしまいました。
ベネディクト16世が新司教の任命を
「信教の自由への重大な侵害」と
強い調子で非難するコメントを発表したのです。

中国側はバチカンとの国交樹立に際して、
「バチカンの台湾との断交」と同時に、
「司教の独自任命権を含む内政不干渉」は
絶対に譲れない、としています。
中国政府としては、バチカンが勝手に
政府に批判的な「地下教会」の指導者などを司教に任命すれば、
共産党一党独裁政権の根幹を揺るがしかねない、
と考えているのです。

しかし、司教の任命権はローマ教皇の権威の源であるため、
バチカンもこの点は譲れません。
中国だけ例外、というわけにはいかないのです。

台湾の統一と国内情勢の安定。
中国政府にとっては、両方とも譲れない
最重要の政治課題です。
宗教をめぐる中国とバチカンの政治的駆け引きは、
中国国内のカトリック教徒の信仰心とは全く別のところで
今後も激しさを増していくことが予想されます。


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2006年12月27日(水)

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