第689回
「恐妻家」の中国政府

最近の中国の外交政策を見ていると、
全ては「国民の支持が得られるかどうか」
という基準に基づいて決定されているように思います。
中国政府にとっては、
アメリカの種々の圧力など「へのかっぱ」、
本当に怖いのは自国民の支持が得られないことなのです。

このため、中国の外交姿勢は、
自ずと強硬なものとなります。

今は安倍首相のあいまい作戦のおかげで
沈静化している靖国問題も、
中国政府には絶対に看過できない理由がありました。
日本の首相の靖国参拝を許せば、国民から
「そんな弱腰の共産党政権は、中国国民の代表に非ず」
という烙印を押されてしまう可能性があったからです。

中国が終戦後わずか27年で、
戦争賠償を全て放棄した上で、
日本と国交を正常化することができたのは、
ひとえに「悪いのはA級戦犯であり、
日本国民は我々と同じ被害者だ。
日本人を恨むな、A級戦犯を恨め」
という国民に対する教育を、
中国全土で行った共産党のおかげです。
そうでなければ、
日本軍に身内を殺された遺族がたくさんいる状態で、
日本との国交正常化はできなかったのではないか、
と思います。

そういう建前で日本と国交正常化をした手前、
A級戦犯が祀られた神社に
日本の首相が参拝するのを容認することは、
共産党が国民を長年にわたり騙していたことになり、
ただでさえ汚職で国民の共産党に対する
不信感が高まっているところに、
ダメ押しをしてしまう可能性があったのです。

このほか、中国政府の悲願である台湾統一も、
延いては大陸の国民のみなさんに
「共産党のおかげで、祖国が統一できた」と思ってもらい、
国民の共産党への信頼を盤石なものにしたい、
ということなのではないでしょうか。
中国政府としては、台湾にとりあえず
中華人民共和国の一部になって頂ければ、
香港のように「一国二制度」で
比較的自由にやって頂いて結構、
と考えているように思います。

中国との外交を考える場合、
中国の国内事情への理解は欠かせません。
中国政府は、外では強硬な態度を貫いていますが、
家に帰ると一転して「恐妻家」になります。
日本政府はその「恐妻家」の部分を巧みに突けば、
今よりも更に有利な外交交渉を
展開できるのではないか、と思います。


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2007年3月19日(月)

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