第721回
「デフレ輸出国」から「バブル輸出国」へ

中国政府は現在、必死になって
国内の過剰流動性を解消する努力をしています。
流動性の増加はインフレによる物価高を引き起こし
国民の生活を直撃、
生活苦に陥った人たちが共産党政権の打倒を叫ぶ、
なんていう事態にもなりかねないためです。

具体的には、利上げや預金準備率の引き上げなどを
何度も行っていますが、
流動性は増すばかり、
消費者物価指数上昇率も
3%前後まで上がってきています。

過剰流動性を解消する一番簡単な方法は、
人民元を切り上げて、輸出を減らし、
貿易黒字を減らすことです。

しかし、余り急激に人民元を切り上げると、
国内の輸出関連産業が壊滅的な影響を受け、
失業者がちまたにあふれて治安が悪化する、
という事態に発展する可能性もありますので、
中国政府は管理フロート制の名の下で
人民元をゆっくりと元高に誘導し、
輸出産業の競争力を徐々に鍛えていく、
という方法を採っています。

入ってくるものが減らない、となると、
出て行くものを増やさなければなりません。

しかし、現在のところ、
中国の人たちが手にした人民元を投資する先は、
中国国内の不動産を買うか、中国企業の株を買うか、
この2つしかありません。
このため、バブル状態の不動産市場を
沈静化させるために様々な規制を設けると、
今度は株式市場がバブルになってしまう、
という現在の状況を招いているのです。

こうした状況を打開するためには、
中国の人たちの投資先を
中国国内だけに限る現在の制度を改め、
海外にも投資できるようにしなければなりません。

そういった背景から、中国政府は今回、
適格国内機関投資家(QDII)制度の下、
商業銀行の顧客資金による海外株式投資を
解禁することにしました。
投資対象は当面は香港市場に限られるようですが、
将来的にはニューヨークや東京にも
その範囲を拡大していくとのことです。

この発表を受けて香港市場では、早速、
本土から大量の資金が流入するとの期待が高まり、
中国企業株を中心に全面高となりました。

中国の外貨準備高は
今年3月末の時点で1兆2,000億ドル。
ということは、それと等価の人民元が
市中に出回っている、ということです。
その大量の人民元が、再び外貨の形になって、
各国の株式市場に流れ込むことになれば、
その国の企業の業績とは関係なく、
株価だけが上がっていく、という
バブル状態を引き起こすこともありえます。

その労働力の安さから
「デフレ輸出国」と呼ばれて久しい中国。
しかし、今度は
大量のチャイナマネーの流出により、
「バブル輸出国」と呼ばれる日も
近いのかもしれません。


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2007年6月1日(金)

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