第734回
香港返還10周年

昨日7月1日で、
香港は中国への返還10周年を迎えました。

国際社会がこの10年間の
中国政府の香港経営に対して下した評価は、
10年前の返還直前の大方の予想に反して
「よくやっている」というものでした。

1997年当時、私は既に北京にいましたが、
その当時の中国はまだ
「盗聴」とか「密告」などという単語が
普通の会話で出てくるような、
独裁国家の恐怖政治が一般市民の日常生活に
暗い影を落とすような社会でした。

また、経済にしても、
人が生まれてから死ぬまでの
全てのコストを国有企業が負担する、
という社会主義経済モデルが破綻し、
大赤字を抱えた国有企業を
どうやって立ち直らせるかが
国家の存亡をかけた大問題となっていました。

こんな状況ですから、
イギリス領の自由な空気と
自由な経済活動に慣れた香港の人たちが
「香港が中国に返還されたら、
言論の自由も参政権もなくなり、
財産は全て没収されて
本土の国有企業の赤字補填に使われる」と考え、
多くの人が返還前にカナダなど
自由主義国家に移住したのも
無理のないことでした。

しかし、中国政府はこの10年間、
「返還後50年は香港の資本主義制度を変えず、
香港の人々が香港を治めるという
「一国二制度」を堅持する」
という当初の約束を守ってきました。

それどころかこの10年で、
当の中国が資本主義国家と化し、
投資と消費で香港の経済を支える、
という芸当までやってのけました。

中国政府の香港経営が
これだけの成功を収めたのは、
香港の「一国二制度」が、
台湾の人々に見せるための
サンプルだからではないか、
と私は思います。

香港が「一国二制度」下で繁栄する様を見て、
「あんな感じなら中国の一部になってもいいかも...」
と思う台湾の人々が増えれば、
中国の台湾統一は大きく前進します。

ということは、
中国政府としては何としてでも香港を
「一国二制度」の成功例にしなければなりませんので、
香港の人たちが不満を感じるような政策は
打ち出せないのです。

中国政府からしてみれば
「牙をむくのは台湾を統一してからでも遅くない」
ということなのかもしれません。


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2007年7月2日(月)

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