第762回
「自然現象を人間の力でコントロールする」という発想

中国政府は来年のオリンピック直前にロケット弾を打ち上げ、
8月8日の晴天を確保する予定なのだそうです。

北京市気候センターの過去30年間の分析結果によれば、
8月8日の降水確率は50%。
これを限りなくゼロに近づけるために、
事前にロケット弾を雨雲に打ち込み雨を降らせ、
8月8日までに雨雲をなくしてしまおう、
または、当日、競技場に近づきそうな雨雲があったら、
近づく前にロケット弾を打ち込んで、
他の地域で雨を降らせてしまおう、
ということらしいです。

このロケット弾、
慢性水不足で悩む北京市が数年前から
人工的に雨を降らせるために使い始めたものなのですが、
ロケット弾に詰められたヨウ化銀の微粒子が雲の中で拡散し、
そのヨウ化銀を核に雲の中の水蒸気が集まって大きくなり、
やがて重さに耐え切れなくなった水蒸気の塊が
雨粒となって落ちていく、という原理なのだそうです。
最近では山火事の消火などでも利用されているようです。

ヨウ化銀、と聞くと、いかにも毒っぽい名前で怖いですが、
その毒性は非常に微弱であり、
ヨウ化銀が入った雨を浴びても、
人体には影響を及ぼさないのだそうです。

一方で中国政府は、今回の北京オリンピックで
「緑色奥運(りゅぃーさーあおゆん、緑色五輪)」
というスローガンを掲げ、
4,000万本の草花の鉢植えを配置したり、
オリンピック村で排ガスゼロの
新型電動バスを運行させるのだそうです。

しかし、私が「緑色五輪」と聞いて思い出すのは、
2001年の冬に国際オリンピック委員会(IOC)の委員が、
オリンピック開催地選定のための視察で北京を訪れたとき、
視察メンバーに良い印象を与えるために、
北京市が枯草に緑色のペンキを塗ったことです。

当時、このニュースを聞いて、
その発想の幼稚さに驚いたものです。

北京は乾燥気候ですが、
夏は雨季なので雨が降ることが多いです。
また、IOCの委員が北京に視察に来たのは冬なので、
草が枯れているのは当たり前です。

こうした自然現象は世界中の人たちが
「しょうがないね」で済ませてくれるのに、
中国はメンツにこだわって
無理に人の手でどうにかしようとするから、
逆に世界中の人たちから笑い者にされてしまうのです。

「自然現象を人間の力でコントロールする」という発想は、
「さすがは神をも怖れぬ無神論者のコミュニスト」
という感じですが、
「自然現象の中で、人間は工夫しながら生きていく」
という考え方が主流の国際社会で、
今後、中国が尊敬される国になっていくためには、
この発想はすぐにでも捨てた方が良いのかもしれません。


←前回記事へ

2007年9月5日(水)

次回記事へ→
過去記事へ
ホーム
最新記事へ