第879回
中国政府の経済政策は「ゆっくりと安定的に」

中国政府は国内の経済政策においても、
絶妙な舵取りを行い、その賢さを発揮しています。

中国政府は日本政府に比べて、
独自の裁量でどうとでもなる部分が大きいので、
国内経済をコントロールしやすいと言えばしやすいのですが、
それでもこの大国を破綻しないように成長させていく、
という作業は並大抵の頭脳ではできません。

中国政府の経済政策の最終的な目標は、
共産党一党独裁体制の維持です。

共産党一党独裁体制の維持のためには、
国内情勢を安定させる必要があり、
そのためには大多数の国民に、
現在の生活に満足してもらう必要があります。
大多数の国民に満足してもらうためには、
一昨年より去年、去年より今年と、
だんだん生活が良くなっていることを
実感してもらわなければなりません。

このため、中国政府は輸出産業を切り捨ててでも、
インフレを退治しようとしています。

もちろん、輸出産業が衰退すれば輸出企業が倒産し
大量の失業者が発生することが予想されますが、
それよりもインフレで
生活が苦しくなる人の数の方がずっと多いので、
国内情勢の安定に及ぼす影響を考えれば、
インフレ退治を優先せざるを得ないのです。

また、2008年はアメリカのリセッションによる
アメリカ向け輸出の減少で、
中国の経済成長率は6年ぶりに
10%を切ることが予想されていますが、
3月の全人代で中国政府が発表した
2008年の目標経済成長率は誰の予想よりも低い8%でした。
通常、国家の目標経済成長率は高めに設定され、
期中で下方修正されることが多いのですが、
中国の場合は全く逆です。

これは中国政府が急速な経済成長よりも、
「速度はほどほどだが長続きする経済成長」
を目指していることを物語っています。
何しろ中国国民は、年々少しずつでも
生活が良くなっているのを実感できれば満足なわけですから、
ゆっくりと安定的に経済が成長していく方が、
国内情勢の安定に有利なのです。

そして今中国政府は、
経済成長の「質」を輸出主導から内需主導に
ゆっくりと切り替えていこうとしています。
そのための人民元の為替レートも、
アメリカを始めとする諸外国の
「遅すぎる!」という声を聞き流しながら、
ゆっくりと元高の方向に誘導しています。

巨象のように大きな中国という国を切り盛りしていくためには、
何事もゆっくりやらないと、
取り返しのつかない大怪我をさせてしまう可能性もあるのです。


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2008年6月2日(月)

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