第1170回
人民元切り上げ要求という名の茶番劇

最近、再びアメリカの中国に対する
人民元切り上げ要求が再燃してきています。

オバマ大統領は先日、
輸出倍増による景気浮揚策を打ち出すに当たって、
中国に対し、より市場価値に基づいた
為替レートを取るよう要請しました。
また、アメリカ議会の超党派の下院議員130人は、
商務長官に対して、他国の不正な
輸出補助金に対抗する手段である
相殺関税法の適用を要求するとともに、
財務長官には、中国を「為替操作国」と認定した上で、
為替制度について中国と交渉に入るよう
要請する書簡を提出しました。

これに対し、中国の温家宝首相は、
元が過小評価との見方を否定し、
問題の政治化や切り上げの強要に反対すると述べました。
更に、前外務次官で新しく国連大使となった何亜非氏も、
昨年の米独の対中輸出が好調だった点を挙げ、
事実に基づいていない要求によって
中国をスケープゴートにするべきではない、
との批判をしました。

こうした一連の報道を見て私が感じたのは、
「また、茶番劇が始まった」ということです。

これは断言しても良いですが、
中国は絶対に外圧では動きません。
中国の政策は外交も含めて、
全て、国内情勢のみを考慮して決定されます。

中国政府が人民元のレートを
8.28から6.83まで切り上げたのも、
アメリカから圧力を受けたからではなく、
輸出増加による外貨準備高の膨張により、
中国国内で過剰流動性による急激なインフレが発生し、
物価高で生活が苦しくなった一般庶民が
中国共産党政権に対する不満を高める恐れがあったため、
大元の輸出を抑えるために人民元を切り上げたのです。

そんなことはアメリカ政府も議会も
百も承知のはずなのですが、
金融危機による不景気でアメリカ国内の失業者が増加する中、
一般庶民の不満の矛先を自分たちから中国に逸らせるために、
実現不可能であることを知りながら、
一応、強硬姿勢で要求するフリをしているのです。

中国政府もこうした茶番な要求に対しては、
一応、礼儀として反論をしますが、
まともに取り合うつもりはないはずです。

中国は外圧によって国内情勢を乱される、
といった事態の発生を回避するために、
普段から世界のどの陣営にも属さない代わりに
敵も作らない全方位外交に徹していますし、
中国国内で足りない資源は海外の権益を獲得する一方、
輸出依存から内需による経済成長を目指す
経済構造改革を進める、
という地道な努力をしているのです。

今回の人民元切り上げをめぐる茶番劇では、
どうも中国はアメリカよりも
役者が一枚も二枚も上であるようです。


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2010年4月9日(金)

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