第1209回
「平成乳業」の牛乳、買いますか?

突然ですが質問です。
スーパーに行って牛乳を買おうとしました。

「明治乳業」の牛乳が1リットル250円、
その隣り置いてある「平成乳業」という
聞き覚えのない会社の牛乳が1リットル150円。
成分的には全く同じなのですが、
あなたなら、どちらを買いますか?

不景気が続き、
生活費を切り詰めなければいけない家計の状況を考えると、
「少しでも安いものを...」ということで、
「平成乳業」の牛乳を選ばれる方も多いのではないでしょうか。
これは、日本では食品偽装が社会問題にまでなったものの、
ほとんどの食品は聞き覚えのない
マイナーな会社が作ったものでも、
ある程度の品質基準をクリアしているであろう、
という暗黙の了解があるためではないかと思います。

一方の中国の人たちは、
聞いたことがないような会社が作っている牛乳は、
いくら安くてもまず買いません。

メラミン牛乳の事件で露呈したように、
中国では行政はザルですし、
スーパーも目利きの役割を全く果たしておらず、
品質が悪いだけでなく、
飲むと体を壊してしまうような危険な商品が
ノーチェックでスーパーの棚に
陳列されている可能性が大いにあります。
このため、消費者は自分の身は
自分で守らなければなりませんので、
値段は少し高くても、なるべく名前を聞いたことがある
「ブランド」の商品を選んで、
そうしたリスクを最小化しているのです。

こんな状況ですので、今でこそ、
香港市場に上場する大企業となった「蒙牛(2319)」も、
最後発乳業メーカーとして牛乳市場に参入する際には、
中央電視台(CCTV)の全国放送でコマーシャルを流して、
「蒙牛ブランド」を中国全土に浸透させるために、
当時の資本金の1/3を投入した、
という伝説を持っています。
中国マーケットでは、自社「ブランド」の名前を
多くの消費者に知ってもらうことは
日本以上に大切なことなのです。

知っている「ブランド」のモノしか買わない。

こうした消費者の消費行動は、
勝ち組と負け組の間に大きな差を生みます。
中国ではマスメディアの広告料が、
物価水準と比べると非常に高いですが、
これは自社「ブランド」を浸透させて勝ち組に入れば、
その高い広告料を補って余りある利益が出るため、
高い広告料を喜んで払う広告主が
たくさんいるためなのではないでしょうか。

「ブランド」を多くの消費者に浸透させることが、
それほど大きな意味を持たなくなってしまった日本では、
マスメディアは既にその役割を終えたと私は考えていますが、
「ブランド」が安心の象徴である中国では、
マスメディアの役割はまだまだ
非常に大きいものであるように思います。

そう言った意味では、
日本企業が中国に進出するに当たって、
全国放送でテレビコマーシャルを打てるような
大手企業が勝ち組になる可能性は大いにありますが、
「ブランド」を消費者に浸透させることができない
中小企業が大きなヒット商品を出すのは、
日本よりもむしろ難しいのかもしれません。


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2010年7月9日(金)

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