第1263回
尖閣諸島問題のポジティブな側面

今年9月に尖閣諸島沖で発生した
漁船衝突事故による日中関係の悪化は、
様々な方面に影響を及ぼしています。

私はずっと北京にいますが、
一般庶民に2005年の反日運動のときのような
険悪な雰囲気はありませんし、
身の危険を感じることもありません。

ただ、ビジネスの方では、
お客様の引越荷物の通関を止められて大変でした。
北京税関が日本向けの荷物に対して
全量検査を始め通関が滞留、
いつ荷物を輸出できるか分からない状況に
なってしまったのです。

北京税関のスタンスは
「規定では税関は必要に応じて
全量検査をする権利を有しているが、
普段は業務の効率を考えて抜き取り検査にしている。
今回は必要と判断したので全量検査をしているまでだ」
というものでした。
法律や規定を最終的には
共産党の裁量でどうとでもできるようにしておいて、
普段は目こぼしし、いざというときには
共産党が法律や規定の範囲内で
狙った相手を機能不全に陥らせる。
見せかけ法治国家・中国のいつもの手です。

さて、日本にとっては災難以外の何物でもない
今回の尖閣諸島問題の中で、
あえて日本にとって「良かった」と思える
ポジティブな側面を挙げるとすれば、
「日本の産業に必要不可欠なレアアースの供給を
このまま中国に依存していてはまずい」
という危機意識を日本国民全員が共有したことです。

日本はレアアース供給の9割以上を
中国からの輸入に依存していますが、
今回の尖閣諸島問題の発生後、
中国は当社の引越荷物と同じ、
税関による全量検査という方法で、
レアアースの対日輸出を止めています。
日本のレアアース備蓄は、官民合わせて約半年分。
日本はこのまま供給を止められると、
自国の産業が重大なダメージを受ける、
という状況に陥っています。

しかし、これにより民間企業では中国以外の国からの輸入、
廃家電からの回収、レアアースを使わない技術の開発を
模索する動きがにわかに活発になりました。
日本政府も先月閣議決定した緊急経済対策に
1,000億円規模の予算措置を盛り込み、
中国以外での権益獲得や備蓄、リサイクル拠点の整備、
レアアースを使わない技術の開発支援に
乗り出すことにしました。

日本は、今回の事件を教訓に、
レアアースに限らずその他の原材料や食糧など、
中国に供給を止められては困るものを今一度リストアップして
中国依存度を引き下げる対策を講じる必要がありそうです。
今回の事件がそうした見直しの契機になれば、
今は災難だったとしか思えない今回の尖閣諸島問題も、
のちのちになって「災い転じて福となす」と
思えるようになるのではないでしょうか。


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2010年11月12日(金)

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