第1386
4,800元で買う6年分の安心

先日、私は中国内陸部の農家を
訪問する機会を得ました。

そのお宅は小麦の他、野菜や果物を栽培しているのですが、
メインの小麦の収穫が終わった時期だったせいか、
昼間も特にやることはなく、
のんびりと過ごされているようでした。

農家のご主人に
「収入を増やすために何かしていることはありますか?」
と訊いてみたのですが、「特にない」とのこと。
その余裕はどこから来るのか尋ねたところ、
ご主人は私の後にある農薬袋の山を指差しました。

農薬袋の中身は面粉(みぇんふぇん)、小麦粉です。
家族全員が6年間食べていけるだけの量があるのだそうです。

土壁と瓦屋根の家はもちろん自分の持ち家。
そして、6年分の食糧の備蓄があれば確かに安心です。
日本人でも家が持ち家で、
年間支出の6年分の貯蓄があれば、
結構、安心して暮らしていけるのではないでしょうか。
この農家の安心のもとは、
家の中で毎日目にする、この面粉の山にあったのです。

しかし、ご主人によれば、
昔は旱魃と豪雨の繰り返しで小麦が育たず、
明日食べるものもないような状況に
陥ったこともあったそうです。
そのときご主人は、豪雨の中、
ずぶぬれになりながらトラクターで
百キロ以上も離れた街に物資を運ぶ仕事をし、
その現金収入で面粉を買って、
何とか家族を飢餓から救ったのだそうです。

そんなつらい時期を乗り越えて、
こつこつと備蓄した6年分の面粉。
しかし、この安心をおカネで買うことは、
そんなに難しいことではありません。

面粉は1つの農薬袋に80斤(40kg)入るのだそうですが、
6年分と言われた山にはざくっと見積もって農薬袋が約50袋。
面粉の価格は1斤1.2元(15円)とのことですので、
80斤×50袋×1.2元=4,800元。
4,800元(6万円)あれば、
家族の6年分の安心を買うことができるのです。

普段、私たち都市に住む人間は、
将来、おカネが足りなくなってしまう不安に怯えながら、
必死になっておカネを稼いだり、
おカネを貯蓄したりしています。
しかし、農村では雨風をしのげる家があって、
4,800元で買える6年分の面粉があれば、
余裕を持って安心して楽しく暮らしていくことができるのです。

おカネが足りなくなる強迫観念に怯えながら暮らすよりも、
「いざとなれば、4,800元で6年分の面粉を買って、
農村でのんびりと暮らすさ」と鷹揚に構えて、
今という時間を楽しんだほうが、
結果的には充実した人生を過ごせるのではないか。

農家のご主人のお話を聞いて、
そんなことを思いました。


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2011年8月24日(水)

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