第1427回
日本の外から見たTPP

国論を二分した結果、
「交渉参加に向けて関係国との協議に入る」という
実質的な結論の先延ばしに至った
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)。

日本の外から連日のように報道される
TPP関連のニュースを見ていましたが、
正直なところ「そんなに大騒ぎするほどのことなのか」
と思ってしまいました。

TPPは日本が参加した場合、
加盟国の総GDP(国内総生産)の90%以上を
日本とアメリカが占める、
実質的な日米FTA(自由貿易協定)ですが、
両国のGDPに占める輸出の割合は、
日本が11%、アメリカは7%でしかありません。
日米両国の経済は現状、ほとんどが内需で回っているのです。

更に、日本の輸出先は、
2008年まではアメリカがトップでしたが、
金融危機後の2009年からは中国がそれに取って代わり、
2010年の割合は中国の19.4%に対し、
アメリカは15.4%となっています。
日本が真剣に検討すべきなのは、
実質日米FTAであるTPPではなくて、
最大の輸出先である中国との
日中FTAなのではないでしょうか。

しかし、日中FTAに関しては、
今まで中国の方がむしろ積極的であって
日本は消極的です。
これは中国のGDPに占める輸出の割合が25%と、
まだ比較的高いためだと思われますが、
中国は今、この輸出の比率を下げて、
消費による内需主導の経済成長を目指すべく、
国を挙げて経済構造の改革をしています。
このため、この比率は今後、
どんどん下がっていくことが予想されます。

中国が経済構造改革を成功させて、
「世界の工場」から「世界の市場」へと脱皮した後は、
世界一魅力的な市場を
タダで外国に開放してあげる必要はありませんから、
日中FTAなど締結する必然性がなくなります。
日中FTAを締結できるとしたら、
中国が経済成長をまだ輸出に頼っている今しかないのです。

TPPはアメリカの対中牽制という
政治的な意味合いが濃いと聞いていますので、
日本は同盟国としてむげに断ることはできないとは思いますが、
経済的には日中FTAの方が日本の将来の国益に
寄与する度合いが高いのではないかと思います。
更に、中国は今後5-10年で
世界最大の農産品輸入国になる見込みですので、
日本の農業を潰すどころか、救世主になる可能性さえあります。

こうなったらいっそのこと、
実質日米FTAであるTPPと日中FTAを
同時に締結したらどうでしょう。
そうすれば、政治的には米中両国における
日本のプレゼンスが大幅に増し、
経済的にも「米中間の中継貿易」という新たな産業が生まれて、
日本経済の活性化に大きく寄与するのではないでしょうか。


←前回記事へ

2011年11月28日(月)

次回記事へ→
過去記事へ
ホーム
最新記事へ