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45. お勘定よりお感情

よく日本における中国悲観論や批判論があり、それらを拝見すると、
特に中国人の金銭感覚というか給与感覚に対する説明がなされています。

まあ簡単に言うと、
中国人は日本円にしてたった数百円の差だけで、会社を移ってしまうとかなんとか。

しかし、私がこの3年間で実際に経験したのは、
日本で聞いてきた内容とはおよそかけ離れたものです。
いや、もちろんそういうスタッフもいます。
しかし・・・いくつかの事実を例にお話さしあげようと思います。

その1:「非常識に安い給与ではじめた幹部たち」

私の会社で勤め始めてくれた幹部スタッフの多くが、
当時今考えるとびっくりするような安月給でした。
私は会社をゼロからつくりましたから、
会社内に給与の基準というものがありませんでした。
加えて、中国に来たばかりでいくら出すのが妥当かわかりませんでした。
そこで、面接で
「あなたが私の会社ではたらくのに我慢できる最低の給与水準はいくらですか?」
と聞いて、実際にその額を一番最初の給与としてオファーしました。

その額は、現在の彼らの月給の約三分の一です。
考えても見てください。
20万前後の初任給のところ、「7万円ではじめます。」ってあなたは言えますか?
確かにわれわれの会社はいわゆるベンチャー企業ですし、
外資系で社長がへんてこな外国人であるといういくつかの特殊条件はありますが、
それでも今の私の常識から考えても、
「よくあんな条件ではじめたもんなだ、彼ら。」という気持ちが今でもあります。

その2:「昇給を断った男」

開業から1年ほどたったある日、
私は1年がんばってくれたスタッフに対する気持ちを表すためにも、
給与の昇給を決心しました。
まだ、赤字黒字すれすれラインの状態でしたら、
実をいうと当時の私としてはとても痛みを伴う大きな決心だったわけです。

そして、一人一人を店の個室に呼び新しい給与を告げると
嬉しそうな顔をして帰っていきました。
そんな彼らを見て私も嬉しくなったのでした。
最後の一人になり、給与の昇格をつげると彼は少し間を置いて私にこういったのでした。

「ジンゾン(「キム社長」の意)。わたし今回の昇給は結構です。
だって、会社まだ黒字じゃないでしょ。
まだ利益が出ていない状況でお給料をあげてもらうことはできません。」

あまりのショックにまだつたなかった中国語で何を伝えていいのかわからず、
言葉に詰まりました。

「大丈夫心配することはない。」と伝え、
(別途述べますが、中国人も本音とたてまえを持っていますので)
本音を確認するために再度聞くも彼は自分の意見を変えませんでした。

彼が個室を出た後、私が日本で聞いてきた中国人観とのあまりの相違に絶句し、
彼の気持ちにまた涙がにじみそうになるほど感動していたのでした。
(実はわたしかなり単純で感動しやすいのです。)

誤解ないようにお伝えすると、評判どおりの人々もかなりいます。
ただ、ここに挙げたたった二つの例からも感じ取れるように、
お金が価値観の一番でない人間もいるんです。

邱先生は昔冗談で「中国にはかつお節となにわ節はありませんよ。」
といって聴衆の笑いをとったそうですが、なんのなんの、
少なくともなにわ節はあるようです。


2008年1月28日(月) <<前へ  次へ>>