トップページ > 炎のシェフ泊のメモ帳 > バックナンバー

   隔週水曜日更新
4. 賄い料理

前回お話した、イル・ラゲットというレストランで
私のイタリア生活がスタートしたわけですが、
本当に色んな事があり忘れられないレストランの一つです。
今回はその一部をご紹介いたします。

皆さんご承知のようにレストランで食べる、
まかない料理についてです。
従業員全ての食事をもちろん作るのですが、
そのまかない料理も私が作っていました。
イル・ラゲットのまかない時間は、
お昼オープンする前と夕方6時頃、1日2回。
場所が海辺ということもあり、
新鮮な魚貝類を使えるのかと思いきや、とんでもない。
ましてやお肉なんて、見たこともありませんでした。
良く作っていたのが、トマトソースのパスタ。
後からきずいたのですが、
そこのオーナーはまかないにはあまり関心が無かったようで、
私としては、メニューに無い
この地方の特別料理を想像していたのですが残念でした。

ある日オーナーが、「ヨシ、寿司を作ってくれ!」と言いました。
ちなみに私はイタリア滞在中は「ヨシ」と呼ばれていました。
話を聞くと、日本人のコックはみんな寿司が作れる!
かるいイタリアンジョークかと思いきや
大笑いしながら目は笑っていませんでした。
はっきり言って専門外です。
今まで居た日本人はみんな作ったのか?
という疑問を持ちながらも
「問題ない!」と言っている自分がとても恥ずかしかった。
言ってしまった以上やるしかないと自分に言い聞かせ
新鮮なネタなら何でも揃っていると思い
何とかお寿司を作りついでに天ぷらも作りました。
しかも海苔がないので、握り寿司。
日本の職人さんが見たら、
ひっくり返りそうな出来だと思いますが
心を込めて握らせてもらいました。
そしてみんなの待つテーブルへ。
みんな恐る恐る口に運び、ひと時の沈黙が続く。

突然オーナーが立ち上がり、
「ブラボー!ヨシ!」(ヨシ、素晴しいよ!)
と言ってくれて拍手の渦に巻き込まれました。
恥ずかしいやら、申し訳ないやら、
日本を代表する寿司がこれで良かったのかどうかは別として
みんな喜んで食べてくれました。
イタリアでお寿司を作れるようになるとは思いませんでしたが、
ここだけの話、私を試したのかどうかは分かりませんが
みんなの期待に応えれた自分が何よりも嬉しかったです。

余談ですが、日本米のような寿司向きのお米など有るわけ無いし、
上白糖や米酢も無かったので、
グラニュー糖とワインビネガーで代用しました。
本当に美味しかったのか今でも謎につつまれています。


2007年4月18日 <<前へ  次へ>>