というのは、全部で十二皿出た料理の中に、生菜包という料理を出した。生菜包の生菜とはレタスのことであって、レタスのなかに鳩の肉かウズラの肉とビーフンの揚げたものを包んで食べるのである。日本では鳩もウズラもあまり馴染まないから、鶏のテバ肉、ササミ、レバー、それに豚のもも肉を代用してもさしつかえない。作り方としては、テバ肉二百グラム、ササミ二百グラム、豚もも肉二百グラム、筍二個、クワイ五、六個を、すべてみじん切りにする。干椎茸は水で戻してから、鶏レバーは茄でてから、これまたみじん切りにする。鍋に油大さじ三杯を入れてから、葱のみじん切りと生薑一片を炒め、香りが出たら、テバ肉、ササミ、豚肉を入れて、水気がなくなってポロポロするまで炒める。これにレバーと筍と椎茸も加えて、さらに炒め、醤油、塩、砂糖少々、胡麻油、胡椒で味をつける。
つぎに天ぷら油を中火にして、ビーフンを乾いたまま入れて焦げない程度に揚げ、細かく潰す。皿の真中に炒めた具をおき、まわりをビーフンでかこんで出す。別に一枚一枚はがしたレタスを皿にのせて出し、ケチャップと醤油と辣椒醤をまぜたソースを添えて出す。食べるときは、レタスの中に鶏肉と揚げたビーフンを包み、辛いのが好きな人はソースを加えて口へ運ぶのである。肉の味よりも揚げビーフンの歯ざわりがよくて、しかも芳ばしいので、サラダを食べるよりはずっと美味しい。
植草甚一さんは、ジャズの本を書いて若者たちに人気のあったおじいさんであるが、その植草さんが教えられるままにレタスで具を包み、一口かむと思わず、
「このキャベツはおいしいねえ」
と叫んだ。キャベツとレタスの違いのわかる人たちはドッと笑った。しかし、もちろん植草さんはどうして皆が笑ったのか、ご存じない。
つぎに寺山修司さんが同じように、レタス巻きにかぶりつき、また同じように、
「うん。このキャベツは本当においしいね」
とやったので、もう一度、皆がドッと笑った。しかし、もちろん誰もなぜ笑ったか説明する人はいない。最後まで植草さんも寺山さんも、自分たちの間違いに気がつかなかったし、植草さんはもうあの世に行ってしまったが、おそらくあの世に行ってもまだ気がついていないのではないかと思う。
テレビのコマーシャルに「違いのわかる男」というのがあって、インスタント・コーヒーの広告をしているが、インスタント・コーヒーの味のどこが違う、といいたいのだろうかと不思議でならない。あれに比べれば、お二人は群馬県のためにでもキャベツの宣伝のできる「違いのわかる男」の資格があるのではなかろうか。
その席上で、私は自分が『話の特集』の建てなおしをするから協力していただきたいと頼んだのはよいが、いざ蓋をあけてみると、一万五千部売れているといったのは真っ赤な嘘で、わずか七千部しか売れておらず、毎月の赤字も百五十万円というのが本当の数字であった。しかし、もう既に乗り出した船だから、後戻りもできず、私はきびしい予算制をしき、広告集めに奔走して約二年で『話の特集』を赤字から脱却きせた。そのために、千九百十万円の金を使い、矢崎君がほしいというので、無償で矢崎君にかえしてあげた。池島信平さんはこの間の事情をよく知っていて、「投資した金はかえしてもらわんのですか?」ときくから、「矢崎君からお金かえしてもらえると思いますか?」とききかえしたら、「それもそうだね」と池島さんは大笑いした。
矢崎君はその後も立派にやっているようだが、私は道楽にお金を使うとはどんなことであるかを勉強して、たいへん役に立ったと思っている。

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