Qさんの本を読むのが何よりスキ
という戸田敦也さんがQライブラリーのガイド役をつとめます

第42回
小説集『密入国者の手記』が出版されました。

邱さんが直木賞を受賞した昭和31年の2月、
『密入国者の手記』が「現代社」から出版されました。
この本には「検察官」、「敗戦妻」「客死」、「密入国者の手記」のほか
故郷、台南で淋しく暮らす父親の心境を思い描く短編小説「故園」の
五作品が掲載されています。
この本の表紙の折り返しのところに
「直木賞、邱永漢君の人と作品」と
題する檀さんの推薦文が掲載されました。

「邱永漢君は1924年、台南市の一商人の家に生まれたらしい。
きょうだいは多ぜいのようだが、格別な秀才の家系らしく、
私が知っている範囲だけでも、姉さんは日本女子大の女重役であるし、
弟さんは一橋大学の卒業生であるし、
邱永漢君自身は台北高等学校を経て旧制の東京帝国大学
経済学部を卒業している。
みらるるとおり、抜群の秀才で、読み、書き、会話はもち論のこと、
教養のほとんどの面において、はげしい日本の影響を受けながら、
しかもその本質において、
邱君ほど中国人の血脈を抜け切れぬ人は珍しかろう。
だから邱君の小説には、日本の文学青年が陥ちるような、
私小説の袋小路とか、心理小説の誘惑とか、
そういう弱味が一点もない。
その筆は何の屈託することも知らぬ気に、
堂々の大文芸を展開してくれるのである。

直木賞をもらったのは、まことに当を得たといえるだろう。
邱永漢君の小説は従来、どれも八十点台のところで、
百点といいきれる作品はなかったが、
しかし百点一本が出来上がったまま、
そのあとですっかり息切れするような作家ではない。
その題材も、その筆力も、矢継ぎ早に日本小説が陥った迷路を
じゅうりんしてくれそうなたのもしい予感がしきりにする。
ちなみにいう。同君の愛妻は、香港でみつけた広東美人であって、
日本語はまるっきりわからないが、
その手料理は一ごちそうになってみても、じつにうまい。」

ちなみに、『邱飯店のメニュー』によれば、
檀一雄さんは昭和29年9月佐藤春夫・千代夫妻と一緒に
「邱飯店」に招かれたのを手始めに、数度にわたって邱家に招かれ、
邱夫人の中国料理に舌鼓を打っています。


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2002年10月8日(火)

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