Qさんの本を読むのが何よりスキ
という戸田敦也さんがQライブラリーのガイド役をつとめます

第43回
『鞍馬天狗』の大佛次郎氏が、小説『香港』を激賞しました

昭和30年下半期の直木賞候補作についての選評が
「オール読物」4月号に発表されました。
それによると「香港」に賛成投票したのは
大佛次郎、井伏鱒二、木々高太郎、村上元三、永井龍男諸氏で、
反対投票をしたのは吉川英治、小島政二郎、川口松太郎の諸氏でした。
邱さんにとって意外だったのは大佛次郎さんが推薦してくれたことでした。

大佛次郎さんといえば『鞍馬天狗』の生みの親で、
いま横浜の「港の見える丘公園」に記念館が建てられていますね。
その大佛次郎さんの選評が小説集『香港』の帯を飾りました。

「私は『香港』を平易に書いてあるが
明るく面白いと思った。
第一、日本の小説にはない神経の太い人間
ばかり出て来るのが興味があった。
背景も生活も面白い。
日本の作家が書いたら線も細くなるだろうし、
困窮しても悠々としている人間の趣きに
誇張か破綻が現れそうである。
日本語で小説を書き出した此の中国人作家には、
島国の民、半島の人間が持たぬ
伸々とした素質があるように感じ、
向後の作品に期待したいと思った。」

また、何年かのち、吉川英治氏から自分が間違いであったと
非をわびる手紙が邱さんの手もとに届きました。

この小説『香港』には華僑の故郷の家族の生活を書いた小説「石」
が併載されました。
この「石」は「売猪仔といって豚のように自分の身を売って
海外に渡った華僑の故郷の家族の生活を書いたものである。
この小説に描いたような惨めな話は広東や福建の田舎に行けば
ゴロゴロしている。
のちにこの小説を自分で脚色し、金曜ドラマで放映した」と
邱さんは『見えない国境線』(新潮社)で解説しています。

さてこの直木賞受賞作品「香港」は、今、「濁水渓」と一緒に
『香港・濁水渓』として中公文庫から発行されています。
この文庫からは電子書籍としても出版されています。
このほか邱永漢ベスト・シリーズ11、『香港・濁水渓』
(実業之日本社)が出版され、『見えない国境線』にも掲載されています。


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2002年10月9日(水)

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