第107回
「お金がないほうが商売は儲かる」
10万部のベストセラー『熱湯経営』の続編――、
大和ハウス工業会長の樋口武男さんの
新刊「先の先を読め」(文春新書)の話の続きです。
本書は、創業者・故石橋信夫さんから受けた
数々の「複眼経営」の薫陶秘話・秘術を、
その創業者が遺した「処世名言」「経営金言」を
ひとつひとつ解き明かしつつ
一語り部として、隈なく書き下ろした力作で、
各項目が、この不況を乗り切る、
先見力と複眼力に溢れた
「ビジネス訓51の強力法則」として構成されていますから、
すらすら読めます。
ちなみに、僕が面白く読んだ
「第13章 お金がないほうが商売は儲かる」
という項目は、次のような話です。
*
創業者は、松下幸之助さんと肝胆相照らす間柄となり、
「人生の師匠」と傾倒したものだ。
その松下氏の教えとして、
創業者が私にも語り聞かせてくれたのが
「お金が出来たら商売は儲かりまへん。
お金がないほうが儲かるもんや」という言葉だった。
世間ではふつう、逆に考えている。
金がないから事業拡張ができない、とあきらめてしまう。
*
そして、創業者からの薫陶を受けて、
大和ハウス工業が大阪から東京進出を果たす頃の
面白いエピソードが告白されます。
最初は、八王子に工場建設用地を探したが
とても資金が足りなく弱気になりかけた頃、
その奥の相模原に電電公社(現・NTT)の1万5千坪の
廃工場が売りに出ている情報を掴み、
なんと、1/3の値段で手に入れることが出来たというのです。
さらに、この秘話には後日談があります。
かつて、この土地に駐留していた米軍が
地中に埋めた送電塔の鉄骨や銅線のついた
碍子(がいし)が、ここからザクザク出てきて、
スクラップ業者に売ると、
土地代の半値近くで売れたというではありませんか?
事業の決断とは、
何が幸運を生むか分かりませんが、著者は、
「このケースは、あくまで
縁や幸運がっての特例かもしれない」と謙遜しつつ
「“ゼニがゼニを呼ぶ”錬金術が招いた
昨今の世界的な経済危機をまのあたりにするとき、
創業者の『お金がないほうが商売は儲かる』という、
この言葉が重く響いてくるのである」と
しみじみと述懐しています。
とにかく、全編をじっくりと読んでみて下さい。
この不況に克つ
目からうろこのビジネス・ヒントの宝の山です。
いま蔓延する「安全志向」「消極思考」への
警鐘本でもありますから、
勇気と希望のエネルギーを貰えることは
間違いありません。
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