ガンを切らずに10年延命-関根 進

再開!元週刊ポスト編集長の目からウロコの体験秘話!

第185回
「暗黙知」=元気企業のひみつ

デフレ、激安、資金難、倒産・・・
低成長期に突入したいま、どうも人間ばかりか、
企業のまわりでも元気の出ない話が多いものです。

そんなときに、パッと眼を見開かせるような新刊が届きました。
題して、
「なぜザ・プレミアム・モルツはこんなに売れるのか?」です。
著者は、経営ジャーナリストの片山修さん。
片山さんは、僕が週刊ポストの編集長時代にタッグを組んで、
世間をあっと言わせる「スクープ」を共にした優秀な記者でした。

いまや、経済の浮沈期のターニングポイントで、
的確に新らたな牽引企業に狙いを絞り、
日本企業の「元気のありか」を捉えるのがうまい作家です。

hiQの読者にも、片山ファンはかなりおられるでしょうが、
すでに、「トヨタはいかにして「最強の車」をつくったか」、
「本田宗一郎からの手紙」「知識ゼロからの松下幸之助入門」
といった数々のベストセラーをものにし、
最近では、世界のミリオネラーにランキングされている
ユニクロの柳井正さんにも密着。
「柳井正の見方・考え方」といった本も出しています。

さて、今回の新刊
「なぜザ・プレミアム・モルツは
こんなに売れるのか?」のターゲットは
「やってみなはれ」の経営方針で有名なサントリー。
物が売れない時代に、30円も40円も高いビール
「ザ・プレミアム・モルツ」をなぜ売ったか?
この不況のときに逆行するヒット商品をどう生み出したのか?
会社トップと現場社員はどう動いたのか?
こうした誰でもが知りたい謎を
「企業は技術なり」だけではなく、
「企業は人なり」という視点から、
いかにも現場主義ジャーナリスト
片山さんらしく踏み込んだ内容です。

いつも思うのですが、片山さんは
「暗黙知」というキーワードを使うのが好きなようです。
こんどの本でも、
「棚に並べる缶は缶の前面が手前に向くように」
「ホテルのバーではカウンターの端から観察する」・・・といった
言葉や文字では伝達できない
「暗黙知」=「あいまい表現」を企業現場にいかに反映できるか?
ここの焦点を絞って、サントリーの内奥に迫っているのが
とても面白いところです。

「五感はもちろん、においや味についての知見など、
高い能力と知識がもとめられる。
だから新人パネラーたちは特殊な訓練を受けて(略)
先輩が後輩を一対一(略)で指導する」

「『甘味』『苦味』『塩味』という表現は欧米にはありますが、
『旨味』という表現は(略)
国際基準にも示されていません。(略)
そうした社内に特有な用語は(略)
なくてはならないものなんです」

「難しいのは暗黙知の共有化だ」として、
武蔵野・利根川・京都・熊本・・・
水や環境の違う、全国4工場の同一品質確保や
トップダウンとボトムアップをいかに両立させたか?
という舞台裏に鋭く迫っています。

著者は、僕と同い年ですから、ことし古希70歳ですが、
その週刊誌の現場で培ってきた現場取材力は、
ますます抜きん出て旺盛のようです。
パソコンとにらめっこしている
頭でっかちなライターや作家を尻目に健筆を振っています。

この先行き不安の時代に
元気をくれる1冊です。
ぜひ、紐解いてみてください。


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2010年7月4日(日)

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