誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第5回
怒ることは健康のもと

どうしてこんなに怒りっぽくなってしまったのだろう。
新聞を読めば役人どもの不正腐敗に怒り、
隣国の領海侵犯や内政干渉に向かいっ腹を立てる一方で、
ケンカひとつできない外務省の腰抜けぶりに腸が煮えくり返る。
テレビを見れば、
芸ノー人やタレントどもの軽薄才子ぶりに癇癪を起こし、
街にあっては娼婦みたいな女子高生や
ポン引き然とした若者に憤激する。
そして電車内ではおしゃぶりのケータイを持ち、
パンツをはいたサルどもの相も変わらぬ傍若無人ぶりだ。
どっちを向いても怒りのタネは尽きまじで、
心の安まる暇がない。

こんなに年がら年じゅう怒ってばかりいたら
身がもつまいにと、周囲は気遣ってくれるが、
なに、それはこっちの科白だ。
世間の連中はなぜこうも、
取り澄ましたような顔をして過ごせるのか
甚だ不審なのである。
これほど怒り心頭に発する事件が頻発し、
目を覆うばかりのハレンチが横行しているというのに、
どの顔も聖人君子のように泰然と落ち着き払っている。
怒りを感じないのか、
怒るだけムダと諦観の境地に達しているのか、
しまいには怒ってばかりいる自分が
非文明的な人間のように思えてくる。

つい最近、定年間近のわが長兄は、
電車内で狼藉を働くケータイ男を
思いあまって殴ってしまったという。
年甲斐もなくと嫂は眉をひそめたが、
私は秘かに拍手喝采。
さすが兄貴はオトコだと大いに褒めそやした。
実は私も車内ではケンカの前科があり、
兄弟揃って血の気の多いことが証明された。
もちろん「義を見てなさざるは……」のクチで、
手前みそながら義しきケンカをしたわけだが、
車内は騒然となり、
ついさっきまで澄まし顔だった君子たちは、
右へ左へと逃げまどった。
泰然とは腰の抜けたるの謂いかと、その時改めて思い知った。

《血が沸きたぎるほど怒れば、老廃物が噴き出て心身爽快になる》
とは佐藤愛子女史の言葉だ。
さもありなんと、私などはこの言葉を拳々服ようし、
時に応じて実践しているが、
なるほど気分爽快、怒ることはすぐれた健康法であると得心する。
当節、怒る男を見かけなくなったが、
ほんとうは怒らないのではなくて、怒れないのではないのか。
怒り方を忘れてしまったのではないか。


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