誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第13回
品性を建つるには……

近頃の日本人は、
何かの拍子にほしいものをゲットしたりすると、
「ラッキー、ラッキー!」と、
まるで三億円でも拾ったかのような大騒ぎをする。
先日、高級ブランド物の質流れ品セールのようすを
テレビ中継していたが、
開場と同時におばさんたちがなだれ込み、
売場は互いに押し合いへし合い、
われ先に掘り出し物をつかみ取らんと、
淑女たちの形相はたちまち悪鬼に変じていた。

エルメスのケリーバッグだか何だか知らないが、
いくつもの高級バッグを抱え込んだ
満艦飾ファッションのおばさんは、
テレビカメラに向かって、
さかんにピースマークをつくって見せた。
もらうものなら夏でも小袖。
おばさんは至極ご満悦の風であったが、
もしも茶の間で亭主や子供たちが
そのようすを見ていたとしたら、
母親の浅ましき姿を見て悲しむことはないのだろうか。
いやいや、それどころか、
「やったね、ママ! テレビに映ったよ」
とでも叫んで小躍りしているのかしらん。

最近の日本人の堕落ぶりを見て、
「武士道精神の復活以外にもはや救う術はない」
と嘆じるのは数学者の藤原正彦だ。
藤原はなにかというと
「武士の血を引く者は……」
などとアナクロ的なことを言い出し、
奥方の失笑を買っているが、
私には至極まっとうな考えに思える。
もしもあの“エルメスおばさん”が藤原の妻女であれば、
即刻離縁されるに決まってる。
なぜならエルメスおばさんには、
サムライの子孫として身につけておくべき
“廉恥心”が著しく欠如しているからだ。

そりゃあ女性であれば
一度は高級ブランド品で着飾ってみたいだろう。
目の前に有名ラーメン店があれば、
たとえ長蛇の行列であっても並んで食べたいと思うだろう。
だがね、そこな町人よ、
人間、時には痩せ我慢も必要だと思うのだ。
ほしいから買いあさり、食いたいからむさぼり食うでは、
あまりに慎みがないではないか。
金持ち国の住人でありながら、なぜそんなにガツガツする。
腹がへっても武士は食わねど高楊枝。
この痩せ我慢精神が、
やがては人間の品性を高めてくれるのだ。

降る雪や明治は遠くなりにけり――
明治という時代が幕を下ろして19年目の
昭和6年に詠まれた句である。
サムライたちがまだ生きていた明治、
ストイックだった明治の精神は、
もはや死に絶えてしまったのだろうか。


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