誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第14回
マンガに淫するオトナたち

電車内でネクタイ・スーツ姿の大のオトナが、
いきなりバッグから少年マンガ雑誌のたぐいを取り出し、
夢中で読みふけっていたりすると心底がっかりする。
よく見かける光景ではあるのだが、
いまだに馴染めず、
つい軽蔑と威嚇を綯い交ぜにしたような眼差しを
相手に向けてしまう。

ところがこの手の男は車内化粧をする若い娘たちと同類で、
鈍感なのかバカなのか、まったく周りが見えていない。
いいオトナが衆人環視のもと、
幼稚なマンガ雑誌に熱中している図は
どう見てもサマにならないのだが、
子供のころからのマンガ中毒で神経がマヒしているのか、
一片の恥ずかしさも感じていないようすなのである。

傍目には立派なスーツを一着におよび、
曲がりなりにも社会人らしさを装ってはいても、
よくよく面つきを見ると、どこか痴呆的な幼さを残している。
これじゃあ女にモテず、
仕事もできず、出世もできないだろうな、
と腹立ちまぎれに勝手な想像をたくましくするのだが、
おそらく当たらずといえども遠からずだろう。

私の友人であり、
日本でも有数のフランス料理店のシェフだった男は、
調理場にマンガを持ち込むことを断じて許さなかった。
「一度はまあ目をつむります。
 でも二度目はだめ。即刻首にします」
とキッパリ。
なぜいけないのか、説明を求めることすら許さなかった。
問答無用。
だめなものはだめなのである。
フランスの三ツ星レストランで
ソーシエの大役を担ってきた誇りがそうさせるのか、
硬派の書にではなく
マンガに淫するような惰弱な精神をとことんきらったのである。 

大人がマンガを読んではいけないという法はない。
わが家の廁には
「クレヨンしんちゃん」と「いじわるばあさん」が
麗々しく収まり、一場の笑いを提供してくれている。
だが、いかな高級な笑いでも、
マンガを公衆の面前で広げることはしない。
場所柄をわきまえる。
マンガは子供の世界のもので、
所詮、大人の鑑賞に堪えられるものではないからだ。
車内でマンガを読むオトナも、化粧する娘も、
シャカシャカ音を響かせる若者も、みな同じ穴のムジナである。
そこに頑張り居座っているのは、
オトナへの移行を拒否している未熟な精神だ。


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