誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第38回
宝石と弁当箱

格安のパック旅行で韓国は済州島に行ったら、
半ば強制的に宝飾免税店へと連行されてしまった。
名所旧跡を見て回る時間より、
宝飾店にとどめ置かれる時間のほうが長いのだから、
旅行会社と宝飾店は共にグルだということがすぐわかる。
済州島はアメジストが特産だそうで、
店内ショーケースには桔梗色の光を放つ指輪やネックレスが
所狭しと並び、日本語の達者な売り子たちが、
日本からのカモを手ぐすね引いて待ち受けていた。

どんな高価な宝石であっても、
道端の石ころ以上のものには思えない私には、
それこそ豚にアメジストで、
売り子が流暢な日本語で買い気を誘えば誘うほど、
逃げ出す算段ばかりが頭の中を駆けめぐっていた。
それでも感じのよかった現地ガイドの顔を立て、
しばらくは店内にとどまって
買うふりをしながら時間をつぶしていたのである。

先日、なにげなくテレビのバラエティ番組を見ていたら、
ニッポンの億万長者特集とやらで、
総額120億円の宝石を身にまとったド派手女が登場してきた。
私が思わず
「この大バカ野郎!」と叫んだのはいうまでもない。
極貧から身を起こし、血のにじむような努力の末、
一代で数百億の富を築いた立志伝中の女らしいが、
所詮、お里は隠せぬものらしい。
せっかくのサクセスストーリーも、
悪趣味の宝石コレクションのために台無しになってしまった。

物の本によると、
深紅の輝きで女たちを魅了してやまないルビーは
サファイアと同じ鉱物で、
組成はアルミニウムの化合物だという。
化学式で表すとAl23で、いわゆる酸化アルミニウムだ。
もっとわかりやすくいうと
お父ちゃんの弁当箱や、
昔の学校給食で豚も食わないといわれた、
あの脱脂粉乳を飲むのに使われたアルマイトが
この酸化アルミニウムである。

もういいたいことはおわかりかと思うが、
ルビーもサファイアも、
お父ちゃんが昔、日の丸弁当を詰めていた
あの弁当箱と同じ組成なのである。
一歩間違えば弁当箱でしかなかったものを、
女たちはジュエリーと称してありがたがっている。
Beauty is but skin-deep(美貌も皮一重)
という西洋の俚諺を信ずる私には、
なんだかこの小さな“発見”がおかしくてたまらない。


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