誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第39回
車内メイカー (その一)

電車内で女子高生やOLが化粧にうつつを抜かしていても、
今やだれも咎めやしない。
言ってもムダと、ハナからあきらめている。
たとえおっかなびっくり咎め立てしても、
その隣や向かいの席にはめしを食ったり
(刺身やカップラーメンを食ってる奴もいた)、
いちゃいちゃ抱き合ったり、
長いあんよを投げ出している不心得者どもが
際限なく控えていて、とても追っつくものではない。
衆寡敵せず。
やっこさんたちを前に、懇々と説諭してやろうと思っただけで、
まるで「もぐらたたきゲーム」を
100万回やったくらいの徒労感をおぼえる。
電車内はもはや公共の場などではない。
A子やC男のプライベートな
食堂であり、寝室であり、化粧室なのである。

つい最近まで、人前で化粧することは
閨房の睦言をうっかり聞かれてしまうくらい
恥ずかしいことだったが、
当節はそんな羞恥心などどこへやら、
ベースメイクからグロスまで
娘たちはフルメイクのすべてをあっけらかんと披露してくれる。
こうした“車内メイカー”を見て、
心ある者は眉をひそめ、時に注意をうながすこともあるが、
「だれにも迷惑をかけてないじゃん」
「おやじこそウザイんだよ!」
などと反撃され、
あまつさえ丹頂ポマードの匂いがきつい
などと逆捩じを食わされ、
衆人環視のもと、
思わぬ赤っ恥をかかされたりすることもある。
敵もサルもの。
厚化粧しているだけに、面の皮も相当厚くできている。

私はわが娘が車内メイカーの片割れであったなら、
見つけ次第、その場で平手打ちを食わせるつもりだが、
よそ様のお嬢様ではそうもいかない。
ただ隣に座って、白粉をパフでパタパタやられた日には、
くさくてたまらないので、その時はやんわり注意する。
もっとも、私のやんわりは
騒音防止条例にひっかかるくらい騒々しいものらしいので、
たいていの人はおとなしくやめるか、
そそくさと席を立ってしまう。

考えてみれば、
若い娘の化粧を基礎工事の段階から観察できるのは、
思わぬ僥倖といえなくもない。
ファンデに続いてマスカラにアイメイク、
なかには顔の脂取り、髪のブラッシングまでやってのける
強の者さえいる。
スッピン顔が時々刻々と彩られ、
変容を遂げていく様を見ていると、
女は「化粧する動物」なのだと改めて思う。


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