誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第69回
女のマナー

テレビのグルメ番組を見ていると、
例によって女性レポーターが、
盛んに「おいし〜い!」を連発している。
中には口の中に放り込むと同時に
「おいし〜い!」と叫ぶレポーターもいて、
見ている者を唖然とさせる。
かと思うと年端もゆかぬアイドルタレントが、
京の老舗料亭の女将を前に、
向付のお味はどうの八寸がどうのと、
舌足らずの講釈を垂れている。
女将はにこにこ聞いているが、
内心は(青臭い小娘が、何をたわごとを……)
と思っているにちがいない。

「富貴三代」という言葉がある。
一代で財をなした者は家に凝り、二代目は服装に凝る。
そして三代目になって初めて食べ物の味がわかるようになる、
という意味である。
つまり食べ物の味なんてものは
金持ちが三代続いてようやくわかるような世界であって、
ハンバーガーにフライドチキン、
テレビ局の仕出し弁当しか食べたことのない、
鈍物なる舌をもった小娘が、やれおいしいのまずいのと、
たわごとを並べられる世界ではない、ということなのだ。
が、そのことはひとまず措く。

私には、彼女たちの食事の所作で気になる点が一つある。
ふつう洋食では口を食べ物に近づけるのではなく、
フォークまたはスプーンのほうを口へ運ぶという
ルールになっているが、若い娘たちの流儀では、
フォーク、スプーンが右手の場合、あごを前方に大きく突き出し、
そのままフォークに向かって
首を大きく右にカーブさせるしきたりになっている。
その際、ろくろっ首のように細首がグーンとしなる。
しなるほどエレガントに見える、
というのがどうやらこの流儀の骨法らしいのだ。

私は最初見たとき、
彼女たちはどこか首の具合でもわるいのだろうか、と思った。
女たちが鏡をのぞくのは自分を見るためじゃなく、
実は自分がどんなふうに見られているか確かめるために見る、
という説がある。
その伝でいくと、女たちは鏡を前にして
ありとあらゆるポーズを工夫したであろう。
ヨーロッパの上流婦人たちの食べ方を見て、
その優雅な作法をマネたのかも知れない。
また、金持ちの令嬢に見えそうな口の開け方はどんなものか、
鏡の前で倦かずにパクパクやったのかも知れぬ。
そして最終的に、
首を大きくしならせるあのポーズが最もエレガントに見える、
と結論づけたのだろう。
別段、感想はない。
ただ女って大変だなあ、とつくづく思う。


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