誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第70回
挨拶運動

いきなり道学先生みたいな物言いになるが、
子に挨拶をしつけるのも親の役目だと思う。
朝起きたら「おはようございます」、
めしを食べるときには「いただきます」、
食べ終わったら「ごちそうさまでした」、
知り合いに会ったら「こんにちは」、
お礼の言葉は「ありがとう」……
とまあ、キリがないのだが、
この基本的な挨拶でさえ満足にできない子供たちがいる。

いや、大人だって偉そうなことはいえない。
高級レストランなどで料理や水のサービスを受けるとき、
ほとんどの大人(特に男に多い)はだんまりを決め込み、
ありがとうの一言もない。
が、このだんまりおやじが
外国のレストランでいざ食事するとなると、
途端に愛想がよくなり、
ギャルソンがサービスしてくれるたびに
「サンキュー」とか「グラッツィエ」を連発し、
おまけに媚びるような笑顔を返したりする。
郷に入ったら郷に従えでね、などと抗弁するのだろうが、
この手の男は帰国するなり、
たちまち以前の仏頂面に戻ってしまうのである。

過日、女房が宮崎県の出張から戻るなり、
興奮顔でこんな話をしてくれた。
宮崎空港でレンタカーを借り高千穂町へ向かう道すがら、
宮崎市内で道路を横切ろうとしていた小学生の一団があった。
車を停めてやさしく横断をうながすと、
子供たちは大きな声で「ありがとうございます」と頭を下げた。
ここまでならよくある光景だが、
横断し終わった彼らが、一斉にくるりと向き直り、
もう一度「ありがとうございました」と元気よく頭を下げた時は、
さすがに女房も驚いた。
「すごいね、この町の子供たちは」
「いいねえ」。
期せずしてこんな感嘆の声が
同乗者たちからも一斉に洩れたという。

高千穂の町でも同じようなことがあって、
女房たちはほとんど感動の面持ちで帰京した。
さっそく宮崎出身の知人に聞いてみたところ、
「そういえば、私たちも子供の頃、そうやって挨拶してたわね」
との答え。
どうやら何十年も前から、
県民こぞって挨拶運動を繰り広げているらしい。
こうした上からの半強制的な
“挨拶運動”に眉をひそめるムキもあろうが、
挨拶なんてものは、最初は強制的に押しつけるもので、
これはこれでいいのだと思う。
こんな素敵な町や県がもっともっと増えてくれれば、
人間関係も少しは風通しがよくなってくれると思うのだが、
さていかがなものでしょうか。


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