誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第102回
べんべんと命長らえて

タレントの毒蝮三太夫は、
TBSラジオの長寿番組で、もう40年近く
「ババァ、まだ生きてやがったのか」
などとお下品な毒舌を吐き続けている。
私はこの番組がひいきで、
マムシの毒にも薬にもならぬ毒舌に時に大笑いしているのだが、
放送開始当初(昭和四四年)は、
ずいぶん苦情が殺到したらしい。
なにしろ、
「ババァ、俺が行ってあんたの葬式賑やかにしてやるよ」とか
「汚ねえジジィだねェ〜、利根川の杭みたいな顔してるな」
などと、いささかガラの悪い悪態をつくものだから、
聴いているほうも気が気ではない。
しかしさすがに苦労人のマムちゃんだ。
「ババァ、まだくたばらねえのか?」と言ったあとで、
「でも、長生きしてよかったな」とフォローすることを忘れない。
リスクヘッジをちゃんと講じているのである。

マムシはいろんな町に出没するが、
概ね受けがいいのは飾りっ気のない下町的なところで、
間違っても田園調布や白金といった
山の手のお上品なマダムの住む町には出張しない。
有閑マダムたちを前にして、
「なんだこのババァ、のり巻きみたいな顔しやがって……」
などとやったら、笑いが巻き起こるどころか、
たちまち険悪な雰囲気になりかねない。
キナ臭いムードの好きな私などは、
気位の高そうな令夫人に対して
「このくたばりぞこないめ!」などと
悪口雑言をぶつけてもらったら、さぞ気分爽快になるだろうに
と心底期待しているのだが、
マムシにはそこまでやる意気地はない。
毒舌などといっているが、ちゃんと場所柄をわきまえ、
ジジィババァと呼び捨てにしても
ケラケラと明るく笑い飛ばしてくれそうなところだけを選んで
回っているのである。

私は若いころから、
ランボーや富永太郎、ラディゲやモーツァルトといった
早世の天才をひいきにしているため、
ただ命長らえているだけの年寄りに、
「長生きしてよかったね」
などとおべんちゃらを言うことはしない。
長生き自慢なぞ、およそ私の趣味ではないからだ。
しかし顧みれば、
碌々と為すところなく過ごしてきた五十有余年だ、
偉そうなことを言えた義理ではない。
マムシのいうところの利根川の杭みたいな
「汚ねえジジィ」に成り果てるのも、もはや時間の問題だろう。
おーい、マムちゃ〜ん、今から20年後、
まだお互いくたばっていなかったら、
おいらの町にも来ておくれ!


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