誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第103回
カラスを撃つ

ハムスターを六代にわたって飼ったことがある。
そのうち三代目と五代目は天寿を全うすることができなかった。
カラスに食われてしまったのだ。
私の過失によるかわいそうな早世であった。
歴代のハムスターは毎日団地内の公園を散歩させていたのだが、
ちょいと目を離した隙に
トンビに油揚げさらわれるみたいにカラスに強奪されてしまった。
悔しいことに、この性悪カラスは、
私をはるか眼下に見下ろしながら、
これ見よがしにハムちゃんの肉をついばみ始めたのである。
「おのれ馬鹿ガラスめ、今に見ておれ!」。
私は拳を天に突き上げた。
私とカラスとの終わりなき戦いは、この機を境に始まった。

私は手製のパチンコで攻撃した。
年甲斐もなく復讐の鬼と化したのだ。
わが家のベランダからしきりとパチンコを撃てば、
ハムスターを襲ったつがいのカラスは波状的に反撃してくる。
これが子育ての時期ともなると、
狂ったようにアタックを繰り返す。
敵ながらあっぱれだ。
この奮戦ぶりを偶然目撃した同じ棟の知り合いは、
よほどヒマなのだろう、
『カラスを撃つ男』
というタイトルのショートストーリーに仕立ててくれた。

そんなある日、
「カラスを食べないか?」と旧友から誘いがかかった。
場所は明かせないが、東北地方のとある村だ。
この村では伝統的にカラスを食していて、
旧友が幹事役になり、
ごく親しい人を集めては毎年カラス料理を賞味してきた。
私は二つ返事で快諾、当日は車を四時間ほど飛ばして駆けつけた。
カラスの刺身にミートパイ、キーシュ、焼きとりと
カラス料理のオンパレード。
嬉しいことにタヌキ汁のおまけまで付いた。
石原都知事はかつて、
カラス対策にはカラスを食ってしまうのが一番、
と持論をぶち上げたものだが、
なるほど食べてみると実に味わい深い。

英語でeat crowというと、
(カラスの肉のようなまずいものを食べさせられことから)
屈辱をこうむるという意味になる。
しかしこの慣用句は明らかに間違っている。
カラスの肉は実においしいのだ。
特にニンニクしょう油で食べる生肉の刺身は最高だった。
初めのうちはハムスターの敵討ちという気持ちが
いくぶんかは胸の内にくすぶっていたが、
食べているうちにそんなことはすっかり忘れた。
囲炉裏端を囲んだ会は盛況だった。
その後、カラスとの数年越しの戦いは自然消滅的に終息した。


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