誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第123回
あらすじ読めば教養人?(その三)

若い者から、
「どんな本を読んだらいいですか」
と聞かれることがある。
どんな本といわれても、人それぞれに好みがある。
そこで私はいつもこんな提案をする。
「好きな作家の全集を、思い切って買い込んだらどう?」。
が、実行する者はまずいない。
私は若い頃からの全集信奉主義者で、
お気に入りの作家は全集を買い込み、隅から隅まで読んできた。
再読三読。
気に入った箇所には傍線を引き、書き込みをし、声に出して読む。
受験勉強のクセがいまだに抜けきらない。

若い頃は、それこそ濫読でもいいが、
肌合いのしっくり合う作家が見つかったら、
全集を買い込み、とことんつき合ってみることを奨める。
読書の楽しみは、多読より精読、その作品のすばらしさに、
ぐうの音も出ないくらいにやっつけられることだからだ。
唐突ながら、私はジャズが好きで、
ずいぶんレコードを集めもした。
凡作もいっぱいあって、
そのほとんどは初心者の頃に買い込んだものだ。
だんだん耳が肥えてくると、勘が働くのか、
駄作凡作はつかまなくなる。
書籍も同じで、つまらない本を山ほど買い込み、
ムダな出費を重ねて初めて選定眼が養われ、
作品の凡非凡を判別できるようになる。

よろずショートカット(近道)を往きたがる現代人は、
こうしたムダや寄り道、遠回りがきらいで、
すぐ結論を知りたがる。
曰わく
「どんな本を読めば教養が身につく?」
「どんなジャズを聴いたら通になれる?」。
そういえば昔、知り合いの女性から
「女の子の間でジャズが静かなブームなんだけど、
 話のタネになりそうなレコードを教えてよ」
と聞かれたことがある。
ブームというものは大概ニセ物で、
そんなものは無視するに限るのだが、
バカ正直に何枚かのレコードを紹介してやったら、
その後、ブームが掻き消えるとともに、
ジャズの「ジの字」も言わなくなった。
また別の話のネタでも探しているのだろう。

「あらすじ本」のブームも似たようなもので、
鴎外漱石も、ただの話のネタに過ぎない。
事前にあらすじを知ってしまったら、
これから先、ヒーロー・ヒロインはどんな運命を辿るのだろう、
というハラハラドキドキが消えてしまい、
なんとも味気ない読書になり下がってしまう。
いっそのこと、
『あらすじで読む世界の名作ミステリー』の類をバンバン出し、
真犯人もトリックもみんなバラしてしまえばいいのだ。


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