「骨董ハンター南方見聞録」の島津法樹さんの
道楽と趣味をかねた骨董蒐集の手のうち

第68回
商品学(インドネシア編)
7. 海を渡った日本の陶器―
一攫千金、掘り出し物アルヨ(II)

その埃を被った壷は
桃山時代の絵唐津の逸品だった!
日本へ持って帰って蓋や箱を仕立てれば
黙っていても茶人は
「島津さん、売ってください」という代物だ。

「Nさん、これどうしたの?」
棚から引っ張ったのは良く分かっていたが
思わず聞いてしまった。
日本で水指として伝世していれば
大変な値段の付くものだった。
まさかこんなところに桃山の唐津があるなんて、
長い間インドネシア骨董探しの旅をやっている僕も
全く気づかなかった。

「Nさん、それ譲ってくれませんか?」
彼は僕の心の中を見透かすような、
団十郎の舞台ではっと睨むような目をして、
「ダメだね。気に入ったもんだから。
 あんたも探すとイイよ。ヒヒヒ・・」とにべもない。
仕方がないので『ゲロ』ってしまった。
「それ桃山の唐津ですよ。大変な掘り出し物ですよ」
「ホーッ!」といって幾分緊張気味に壷を抱え込んだ。
「2,3百万はするでしょう」というと
華奢な手でさらに壷を深く抱え込んでしまった。

Nさんはその後店の親父との交渉を僕に丸投げした。
結局、500円ほどで買ったのだが
僕はとても複雑な気持ちになった。
安ければ安いほどイライラするのだ。
Nさんは上機嫌で
新聞紙で包んだ壷をぶらぶらさせながらホテルに帰った。
そして風呂で丁寧に洗ったのだろう、
夕食の時にレストランに持ってきて
「どうだ、立派な唐津やろ。
 500円とは安い買い物だな。
 ファーッ、ファーッ、ファーッ」といって
僕に見せびらかしながら、
上機嫌でビールをぐっとあおった。
テーブルの上の壷は生き返ったように艶々と輝き出した。
50万円まで出すといったが、
どんなに頼んでもNさんは譲ってくれなかった。

中国や東南アジア陶磁は勿論、
柿右衛門、古伊万里、唐津のような日本陶磁、
オランダのデルフト、ドイツのマイセン、
ペルシャ陶磁までインドネシアにはある。
それに信じられないことだが高麗青磁も出土している。
名所旧跡をめぐる旅も良いけれど、
骨董好きだったら掘り出し物を探す旅など
最高に面白いところだ。

「島津さん連れてって!」という声は非常に多い。
しかしNさんのこともあるので
以後耳を貸さないようにしている。

 

平戸焼染付鉢(江戸)

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