「骨董ハンター南方見聞録」の島津法樹さんの
道楽と趣味をかねた骨董蒐集の手のうち

第196回
骨董を見る目―危ないビジネス、ソウル→北京→丹東→ケソン

本歌高麗青磁刻花文梅瓶


「だけど砂高台は13世紀でしょ、こんな発色無いはずだけど」
と、僕の突込に対してはすかさず別の攻め口を見つけてきた。
「ここの部分にカセがあるでしょ、アナタわからないか。」
といって、僕が迷っていたカセ部分を指差した。
そのうちハッと気が付いた。
古い朝鮮の壺や茶碗などには必ずあるはずの歪が無い。
どんなに素晴らしい美術館収蔵の作品でも、
韓国陶磁は必ず歪んでいる。
梅瓶なども少し傾いたり、
口がセンターからややずれたりしている。
それがこの梅瓶にはないのだ。

物を見慣れていると、
理屈だけではなく目がおぼえてしまうことがある。
本当によく出来た偽物でも目のほうで異常を感じる。

その後ソウルで金さんに会った。
彼はこの頃金回りがいいみたいでデカイベンツに乗っている。
服装もスカッとしていて僕よりよっぽど金持ちだ。
その彼がこんなことを言った。
「韓国で作った偽物を北へ送ると、
 向こうで日本や韓国のディーラーがせっせと買うのよ」
「何を売ったの?」
と聞くとその問いには答えず、
「貨車一杯分売りましたよ」
と言った。
「中朝国境の丹東(タンドン)まで金を運んで骨董を探すよりは、
 偽物を売るほうが確実に儲かる。
 何しろ北は偽物に対する免疫が全くありませんから、
 それに北で買ったものは偽物であろうとなかろうと
 ディーラーは返品が効かないのでいい商売ですよ」
と恐ろしいことを教えてくれた。
彼のファミリーは丹東で金を奪われ、
頭を石で殴られ大怪我をしている。

「どこからコピーを北へ入れるの?」
「丹東まではこちらで運びますが・・・
 そこから鴨緑江を渡って向こう岸まで運ぶのは
 現地の朝鮮族の人がやるので割りと簡単です」
「丹東には向こうから来るものを、
 蟻が群がるようにディーラーが買い付けに来ていますからね。
 このあたりの商売は皆一発勝負で
 全く責任が無いからいいですよ。
 ここから北京経由で日本にも良い物が運ばれていますよ」
といって金さんはアハハと笑った。

僕も骨董屋の端くれ、
彼の作ったものに騙される訳にはいかない。
本歌(オリジナル)に対して偽物が作られるのはしょうがないが、
北朝鮮や国境での商売は危ない話も結構あるようだ。
北朝鮮で偽物があるはずがないという思い込みを逆手に取った
目端の利く金さんの発想だ。


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