自腹ゆえに本音、愛するがゆえに辛口。
友里征耶さんの美味求真

第748回
単品専門店の方が長続きするかも

スーパー、デパートに限らず商社まで、
なんでもかんでも取り扱うといった「総合主義」が
壁に当たってきているようです。
昔は不振な部門を好況な他の部門がカバーできると、
どの業界もやたらと軒先を広げていましたが、
今は電機メーカーさえも「総合」ではなく、
「選択と集中」に舵取りを変えて久しくなりました。
私は最近、飲食店でも同じような現象があらわれていることに
遅まきながら気がつきました。

今春オープンした西麻布の「豚組」という高級トンカツ専門店。
3種の豚のそれぞれロースとヒレを用意しているだけで、
数十分の揚げるための待ち時間を入れても
1時間かからないで食べ終わるシステムの店です。
(イベリコ豚はロースだけです)
「ひらまつ亭」のあったところで
居酒屋を経営している会社の3番目の出店のようですが、
この店の料理長は和食系の出身とのこと。
同じく、新橋の駅前ビルにオープンした
廉価なトンカツ店「とんかつ まるや」も
聞いた話では、和食で修業していた
若い料理人やサービススタッフが開いた店だそうです。
独立する際、どのような飲食店が息長くやっていけるか考えた末、
「トンカツ」にたどり着いたとのこと。
トンカツの調理技法を軽く見るわけではありませんが、
せっかく和食を修業していたのに
どちらかというと
B級イメージの専門店に鞍替えする理由は何なのか。
日本人はトンカツ好きだということもあるでしょうが、
今は「総合」より「専門」の方が
飲食業界でも生き残れるという風潮になってきているようです。
そういえば、イタリアンも昔は北から南まで網羅して
日本人向けに修正した料理を出す店がほとんどでしたが、
今はシチリア料理だ、ピエモンテ料理だ、
と地元料理に限定することをウリにする店が多くなってきています。
専門化が行き着く先がこの「単品料理店」なのではないでしょうか。

「トンカツ」にスポットを当ててみると、
結構昔から専門店は続いています。
「ぽん多」はじめ御徒町の御三家、
目黒の「とんき」、浅草近辺の「すぎ田」
など長く続いている有名店は多い。
これらの店は、評論家やライターの評価が高い店で、
それに乗って集客も順調な店が多いようですが、
果たして並ぶほどのお味なのかどうか。
最近私は新橋の「燕楽」という
これまた高評価されている店へ何回か行きましたが、
ウリの拘ったラードでゆっくり揚げる高額トンカツを食べている客は
ほとんど居ません。
ほとんどの人が黒くなった油で次々と手早く揚げている
「普通のトンカツ」を食べているのですが、
肝心の「ウリのロース」でさえ私には肉質、揚げ方、油の香りと
少しも凄いと感じる物ではありませんでした。
とんかつ自体、少々肉質や油に拘らなくても、そこそこ楽しめる、
はっきりいうと誤魔化してでも食べられる料理だからでしょうか、
誰かがべた褒めするだけで、
通う客は「おいしい」という先入観で満足して帰っていくと
私は考えます。
仕入れ食材も限定できますから歩留まりの問題も少なく、
運営的にも楽。
しかも、食材の差というか、店毎の味の差がそうは変わらない、
つまりブラインドで食べたらどの店かわかりにくい、
しかし、思い切って食材の質を上げると
割と誰でもおいしい物を提供できる。
総合料理である和食をやめて、
トンカツで勝負してくる理由がなんとなくわかったのですが、
これは他の専門店でも当てはまると考えます。

私が前から主張している「鰻専門店」。
拘りのタレと言いながら、
実はたいてい5対5の調合で簡単にできるとか。
目隠ししたら、どこの鰻屋の蒲焼かわかる人は少ないでしょうし、
なにより、他店と比べて傑出しているとは思えない
「野田岩」や「尾花」が、
マスコミの高評価のおかげで
笑いが止まらなくなっているという現象も、
単品専門店の優位さをうまく活用していると言えるでしょう。
そうそう、天麩羅専門店の「みかわ」も他店と大差ないですが、
盛況なところは同じです。
トンカツ、鰻、天麩羅などの単品専門店は、
マスコミをうまく味方につけられれば、
永く繁盛しつづけることが出来るようです。


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2005年9月8日(木)

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