日本に資源がなかったこととアメリカからの技術導入が成功の大要因
以上のような諸条件が工業生産に必要なことは確かにそのとおりだが、それ以上に重要でかつ日本にとって幸運だったことは、何といっても、第一に日本国内にこれといった資源がなく、原料を外国に仰がなければならなかったことであろう。
そして、第二に、アメリカ軍によって占領され、復興にあたって、アメリカが自国の市場を日本製品に開放してくれただけでなく、生産技術まで教えてくれたことであろう。
日本に資源がなかったことが日本の工業の発展を助けたというと、いささか奇妙にきこえるかもしれない。しかし、このことは中近東の産油国や、オーストラリア、カナダなどの資源国が世界で一番工業の発達した国ではないという事実を見れば、すぐにもうなずけることである。
自国に資源を産出することは、工業がその国で発達する絶対的な条件ではない。それどころか、国内に資源があることは、しばしば工業の発達にとってマイナス要因として働く。国内に資源があると、どこの国でも自国の資源を優先的に考えて、その開発を保護しにかかるからである。
たとえば、日本は世界的に見て、第一級の製鉄王国である。いまは過剰生産におちいって、老朽設備のスクラップ化に忙しいが、生産能力が一億トン以下に抑えられる前は一億四○○○万トンにものぼり、国内はもとよりのこと、輸出市場でも大いに稼ぎまくった。その日本が、日本国内では、砂鉄を少し産するだけで、溶鉱炉で処理する鉄鉱石はただの一トンも産出しない。高炉で使用するコークスをつくる粘結炭もその大半を輸入に仰いでいる。
これは仮定の問題だが、もし日本が自国内で鉄鉱石を産出していたとしたら、はたして日本は今日のような製鉄王国になっていただろうか。答えは、おそらくノーであろう。
もし日本国内で鉄鉱石が産出されていたら、日本の政府は自国産業の保護の名目の下に、安い鉄鉱石が国内に持ち込まれて国内の鉱山業者に打撃をあたえることを防ぐために、高い税率を課して、外国産の鉄鉱石が入らないようにしたに違いない。米や牛肉や乳製品に対して今日の日本政府がどんな措置をとったかを頭に浮かべたらわかりやすいだろう。
国内で製鉄に従事するとすれば、工場は鉄鉱石の産地に近いところに建てられる。もしくは粘結炭の産地に近いところに建てられる。西ドイツを見てもわかるように、多分、それは臨海地帯でなくて、内陸になっていただろう。
資源が豊富に、いつまでも続けば問題はないが、何百年もあると思われていた埋蔵量も、生産がふえるにしたがって、あっという間に底をついてしまう。すると、西ドイツのように、鉄鉱石をコンゴとか、アンゴラとか、アフリカの僻地まで買いにいかなければならなくなる。港まで運送してきて船に載せ、海を渡って西ドイツの港に到着すると、そこからまた内陸まで運搬しなければならなくなる。運搬に要する費用だってバカにならないのである。
その点、日本は国内で鉄鉱石を一トンも産出しないから、国内業者の抵抗を受けないですむ。世界のどこの国からでも、一番品質がよくて、一番値の安いものを、それも値切りに値切り倒して手に入れることができる。
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