第四に、下請け企業を系列化することによって、パーツの品質をコントロールできる。下請け企業に資本参加している場合は、下請けの人事を左右することもできるが、そうでない場合でも注文を出す出さないで下請けの死命を制することができる。子会社、下請け会社の親会社に対する態度は親孝行息子以上のものであり、親会社の要求がどんな無理難題であろうとも、聞かないわけにはいかない。もし売り手と買い手の関係だけなら、検査をしてはねられた不良品を返品すればよいし、不良品が多すぎていくら警告しても効果がなければ、取引関係を解消すればよい。ところが形は別法人であっても、事実上、身内であってみれば、要求を厳しくするだけでなく、ついには100%合格のパーツの納入を下請け会社に押しつけるようなった。パーツ・メーカーの不良品率がppmの率まで低下したのは、こうした協力関係なくしては考えられない。
第五に、新製品の開発過程で最初から密接な協力体制を組むことができる。アメリカの企業でも、パーツ・メーカーに新製品のパーツを発注することはできる。しかし、図面を渡して試作をたのみ、試作品のできを見て価格や発注の数量を決めることはできても、どんな新製品をつくるのか、どんな性能を相手に要求しようとしているのか、フランクに相手に打ち明けるわけにはいかない。とりわけライバル会社に納入していることがわかるだけに秘密がもれるのがおそろしいし、まして同じパーツがライバル会社に納入されることになれば、敵に塩を送るようなものである。その点、下請けの系列化がほぼ完全にできておれば、そういう懸念は一切なくなるから、最初からブロジェクトを打ち明けて仲問に入ってもらうこともできるのである。
第六に、何といっても、細かい・ハーツの類は、大会社がつくるより、それぞれ独立したパーツ・メー力ーから仕入れたほうが安い。親方日の丸で機械の前に立つのと、一つ不良品を出せば、自分がそれだけ損をする立場にいるのとでは、不良品を出すまいという気構えが違うし、何が何でも事業を成功させようという意気込みも違う。したがって、よく売れる商品の最後のアッセンブルと販売は親会社が自分たちでやるとしても、一つ一つのパーツをつくることから中間までのプロセスは、それぞれの下請けに任せておくほうがずっと効率がよいのである。トヨタを見てもわかるように、トヨタ車体という下請けまであって、組立てた車体を最後の組立て工場まで運び込んでいる。スミスの指摘したような分業が日本の国ではあますところなく発揮されているのである。
日本人が工業生産の面で一頭地を抜くようになったのは、企業内でのチーム・ワークがよくできていることのほかに、以上あげたようなピラミッド型企業群をつくりあげ、それがうまく機能するようになったからである。日本はもともと地震の多い国だが、産業界の地震は、天然の地震の比ではない。そうしたショックに対する柔構造を体験に照らして、巧みにつくりあげたことが、日本の産業的成功につながっていったのである。
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