原料を確保する点においても、日本の大企業は長期的に安定した供給を求める。安定した供給とは、量的な安定のほかに、価格の安定も含まれる。変動する経済のなかで、供給価格を安定させるためには、国内における下請け企業と同じように取引先を系列化することが望ましい。しかし、外国で原料を供給しているのはそれぞれの国の企業であって、必ずしも日本人とは同じ考え方ではない。市場原理を重視する企業が多いので、なるべく高く売ろうとするし、市場価格が上がったのにお客が値上げに応じてくれなければ、もっと高く売れるところにすばやく乗り換えようとする。反対に値下がりしているときは、損をこらえても値下げに応じてくる。ところが日本人は市場価格の値上がりしているときでもなかなか値上げに応じてくれない代りに、市場の悪化しているときでも、明日にも値下げをせよと迫ったりはしない。自分の系列会社を守ろうとするので、全体としての需要の減っているときでも、他からの買い入れはやめて一定の安定した注文量は確保してくれる。だから、日本人の気質とやり方が理解できたら、日本企業の系列下に入れば、倒産の心配はまずなくなる。その代り「生かされず、殺されず」という原則が支配するから、よほど下請け会社に他の追随を許さない技術力や手練手管でもない限り、お金はなかなか儲けさせてくれない。ちょっとでも儲かりそうな財務内容になると、ふだんから相手の決算書まで見ているだけに、すぐにも値下げを要求してくる。儲けはほとんど親会社に吸収される仕掛けになっているが、その代り子会社が成り立たなくなるような苛酷なこともやらないのが日本式経営方法なのである。
工業製品には原材料費が大きなウエイトを占めている物もあれば、少ししか占めていない物もある。原材料費率の高い業種はあまり利益が上がらないが、それでも農業よりはずっと有利である。一般に原材料の占めるパーセンテージが三分の一、加工費が三分の一、そして粗利が三分の一というのが工業生産のコストの一応の自安であり、このことが工業社会を豊かにしている原因でもある。お金が儲かるかどうかの工夫の余地は原材料と加工費の中にかくされており、原材料を安く仕入れるか、加工費を安くすることができさえすれば、お金は必ず儲かる。たとえば素材を鉄からアルミに変えるとか、逆にアルミから鉄へ変えるとか、そのために金銭的な負担が軽くなってコストダウンにつながれば、それだけでかなりの儲けになる。また生産の工程を変えたり、パーツの数を減らしたり、オートメを採用したりすることによって人件費を減らすことができれば、これまたコストダウンに大きく貢献する。こうした利益の追求は日本の企業がふだんから力を入れていることであり、人件費のコンスタントな上昇にもかかわらず、それをこなして工業製品の価格を下げることに成功したのは、生産性が人件費の上昇を力バーしてあまりあったからである。

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