それにしても、東南アジアからの旅行者が日本に来て、一驚することは、物価の高いことであろう。日本でつくられている力メラやテレビですら、東南アジアで売っているよりも高い。さらに、もっと驚くのは、日本のメー力ーの製造原価が高いために消費者の手に入る値段が高いのではなくて、生産原価は安いのにデパートや小売店で売っている値段が高いことである。馬喰町とか、横山町とか、小売業者が仕入れにいく問屋街がある。そこへ行くと「素人お断り」と一応、貼紙がしてあるが、小売商人のようなふりをして入れば、黙って売ってくれるし、「台湾から来ました」「香港から来ました」と言えば、輸出と同じだという理由をつけて喜んで売ってくれる。以前は、小売商から苦情が出て、外国人を締め出したこともあったが、最近では台湾からの観光客が宿泊しているホテルまでセールスマンが出張してきて、マイクロバスで送迎してくれるサービスぶりである。外国人は日本へ来ると、問屋で買えばデパートの四割安とか、半額で買えることにすぐにも気が付いて専ら問屋に通う。日本でメイド・イン・ジャパンの工業製品を安く手に入れることに気付くのは外国人であって、日本人ではない。それだけ外国人が物価に敏感で、日本人が鈍感であることがはっきりしている。日本人は同じところに長年、住んでいても、どこへ行けば物が安く買えるか知らない人が多いし、またそうしたことに関心を持たない。家電製品や音響機器のような値高の商品は、安売りで買えばかなり値にひらきがあるので、さすがに秋葉原まで買い物に行く人が多い。しかし、それ以外の物はどこが安いとわかっていても、面倒臭がってデパートで用を足してしまう。こうして見ると「日本の流通システムに非関税障壁がある」と言ってアメリカ人あたりが盛んに批判しているが、一番大きな非関税障壁はどうやら日本の消費者の物ぐさだということになる。日本の消費者は、そんなにお金持ちでなかったころから、物を安く手に入れることには不熱心であった。工業生産で世界の競争に打ち勝っためにはコスト・ダウンをやって安くつくることが必要なことは知っていたし、そうすることに情熱を燃やしてきたが、物を安く買うことには相変らず不熱心で、お金があるようになると、ますます不熱心になった。こういう人たちを相手に商売をしようと思えば、「安さ」をセールス・ポイントにしていたのでは成り立たないのは当然であろう。
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