ならば為替レートを変動させることによって、諸国間の物価が自動調節されてほぼ同じ値段になるかというと、価格の動きはそれぞれの国の商習慣の間題もあるし、生産原価の違いもあるし、また物を買ってくれる消費者のふところ具合の影響もあるから、為替の変動を敏感に反映するのは主として輸入品だけで、為替が変動したほどに物価は変らないものである。
たとえば、一フランが六○円もしていたころのフランスに行くと、何もかも高いという一語につきたが、フランが二○円ちょっとになると、エルメスで買い物をしても、またタイユバンやルカ・キャルトンで食事をしても、そんなにはこたえなくなった。かつてドルの高かったころにアメリカ人が日本へやってくると、王侯貴族のように振る舞うことができたが、今は高い円を持った日本人の小娘がパリに行って、プラザ・アテネやクリヨンに泊ったり、
ルイ・ヴィトンやシャネルで高価なファッション製品を買いまくるようになった。それは為替相場の変動によって物価のアンバランスが是正されたからではなく、新しいアンバランスが生じたからにほかならない。いつの時代でも、「強い通貨」を稼ぐ人たちがトクをするほうにまわるものである。
かつてのオランダ人がそういう立場にあったこともあるし、イギリス人がそうだったこともある。やがてそれがアメリカ人の時代になり、ついで日本人にお鉢がまわってきた。「強い通貨」と「弱い通貨」がそれぞれの国の人々の羽振りにあたえる影響は露骨すぎるくらい明白なので、かつてアメリカ人がヨーロッパで陰口を叩かれたように今は日本人が盛んに憎まれ口を叩かれる番となっている。一ドル二一○円台、二二○円台で円をドル、あるいは他の通貨に換えて外国で物を買うと、つい「安い」「安い」の連発になる。「安い」理由は、円が「強い通貨」に出世したせいもあるが、日本の物価が円レートに比して格段に高く、とりわけ外国のブランド商品が現地の二倍から三倍の値段で売られていることとも関係がある。
この調子で、年に一○○○万人もの人が海外旅行に出かけるようになると、国内でブランド商品を買うのがバカらしくなって、皆、現地で買うように変る。商品のなかではおそらくブランド商品の国内販売価格が引き下げられるようになるだろうし、航空運賃もその例外ではない。もしそうならなければ、輸入チケットを使う人がうんとふえるだろうし、輸入チケットに対して搭乗拒否が行われれば、出発地点を香港やソウルに換えて世界旅行をする人がふえる。

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