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          第13回 
          体力自慢後編・下町のモハメド・アリ 
         今日のコラムは、昨日ご紹介した耳鼻科の先生のお話の続きです。 
        先生は急に腕まくりし始めました。 
          暑いのかな?と私が思う間もなく、 
          「どうだっ」 
          80歳が繰り出す右ストレ−ト。 
          「アブナイ!」、 
          私がパンチをかわそうとすると、目の前で拳を止めました。 
          あやうく難を逃れた私を見て、先生はニヤニヤ笑っていました。 
          そこにいるのは、もはやお医者さんではなく、 
          いたずらっ子でした。 
        もしかすると、 
          感傷に浸っている姿を見られたことが恥ずかしくて、  
          このような行動に出られたのかもしれません。 
        さて、蝶のように舞った先生に、 
          蜂のように刺されるところまではいきませんでしたが、  
          突き出された腕を見て気づきました。 
          お年に似合わないほど筋肉が引き締まっていたのです。 
          80代のボクシング大会があれば、 
          まず優勝間違いなしでしょう。 
        病気を治す筈の病院でケガをしそうになり、 
          私は内心の驚きを隠せませんでしたが、 
          先生の得意気なお顔を見ていると、 
          おもわず、「いいパンチですね」と 
          答えてしまいました。 
        これだけで終わりませんでした。 
          診察時間は終了していましたが、 
          支払いが済んでいない患者さんもチラホラ残っている待合室で、 
          今度は柔軟体操を始めたではありませんか。 
          散々、体の柔らかさを見せびらかした挙句 
          私にも強要されたのには本当に弱ってしまいました。 
        そうこうしている間、 
          ふと、受付の女性の方に目をやると 
          「また始まったか」という表情をされていました。 
        後日談。 
          先生の奥さんにお会いしたことがありましたが 
          ナルホド、恐妻家のようで 
          隣にいた元ワンパク坊主はおとなしかったです。 
        今、冷静に振り返ると 
          毒にも薬にもならないことを 
          先生はなさっていたようにも思えますが、 
          病院でこのような元気薬をいただいたのは 
          初めてのことで、強く印象に残っています。 
        もちろん、会社へ帰る私の足どりが軽かったことは 
          言うまでもありません。 
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