山本理さんの「男が語る美容に効く話」

第45回
パン問答

景気悪化のため、
職を失い住む場所も失う人が増えている
というニュースを聞いて、
十年ほど前、あるファーストフードのお店で
アルバイトしていた頃の出来事を思い出しました。

それは深夜十二時を過ぎていましたが、
ゴミ捨て場で売れ残ったハンバーガーを物色する男と
鉢合わせしたときのことです。
真夜中で周囲に灯りもないため、
男の顔はよく見えませんでしたが、
いつから同じ服を身に着けているのかわからないような格好で、
そういった生活を長い間続けていることはすぐにわかりました。

その日、偶然にも丁度期限の過ぎたパンが店に残っていたので
「どうせならこの人にあげよう」と
社員の人に許可をもらい、取って返したところ、
その六十過ぎの男は
まだゴミ袋のクチを開けてゴソゴソとやっていました。

私は黙って
十個以上パンが入った、その透明な袋を置きましたが、
いくら私がさり気ない積りでも、
男のすぐ真横でしたことですから気付かないわけがありません。
ところが、彼は全く見向きもしようともしませんでした。
私は彼が私の目を気にしていているのだ、
屹度、あとで持ち帰るだろう、と気にも留めず
その場を離れました。

それからは仕事が忙しいこともあって
そんなことがあったことすら忘れていましたが、
後で、「そういえば、あのパンはどうなったのだろう」と
確かめてみると、手付かずの状態で置かれていたのです。
そうすると不思議なもので、
私は何か感情を逆撫でされたような気分になりました。
ひょっとすると「施してやろう」という
エラソウな私の気持ちで
その男が傷ついた所為かもしれません。
それとも、単にハンバ−ガ−にしか
興味がなかったからなのでしょうか?
本当のところはわかりませんが、
外国では昔、パンを盗んだがために
牢屋に入れられた人がいたそうですから、
時代が違うものですね。


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