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          第64回 
          名誉は掛け捨て、善行は積み立て 
         年輪を重ねた方が人に出来ることといえば、 
          先ず金銭的援助が挙げられると思います。 
        たとえば、私がいつも利用する駅の近くでは 
          路上パフォーマンスをしている 
          二十歳前後の若者の姿を見かけることも多いです。 
          そんなわけで、演者も見物人が 
          ティ−ンエイジャーといったことも珍しくありません。 
          しかし、ある日、 
          年配の方を中心とした人だかりができていたため、 
          足を止めて、なかへ入ってみると 
          そこには茣蓙に座った鉢巻き姿の男の子が 
          筆で色紙に詩を書いていました。 
          所謂、このパフォーマンス書道といわれるものを 
          じっくりと見たのはこのときが初めてでしたが、 
          即興による作品が完成すると、 
          年配の女性が財布から千円を出しておられました。 
          金銭的援助というには額は小さいですが、 
          おばあさんが財布の紐を緩めたのは 
          目の前の青年が一生懸命に筆をとっている姿が、 
          彼女の心を捉えたからでもあるし、 
          仲間や大勢の人の前で若者に善行を施してみせたという 
          見栄のためだともいえるかもしれません。 
        これと同じように、社会的に成功した経営者で 
          慈善事業に力を注がれる方がおられるのも 
          勿論、社会がよくなって欲しいという純粋な気持からでしょうが、 
          名誉を手に入れたいという面もあるでしょう。 
        考えてみると、お金と出世のチャンスが 
          舞い込むことは人の一番喜ぶことで、 
          それを出来るのは生活に余裕があったり、 
          しかるべき社会的地位にある方です。 
          ゲーテにエッカーマンがいたように 
          死んだときにあとに残った人からよく言われようと思えば、 
          周りの人間によくしておかないといいようには言ってくれません。 
          いや、よくしていても 
          いいことはなかなか人に伝わりません。 
          「死んじまっちゃあ、おしまいよ」 
          と思われるかもしれませんが、 
          折角生まれてきたなら、 
          善行を積み立てていきたいものですね。 
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