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          第67回 
          生涯現役の不良老人 
         年をとったからといって、 
          急に聖者のような生き方を出来るわけはありませんし、 
          第一、そんな人は面白くないでしょうが、 
          高齢化が進むにつれて、 
          元気な不良老人も増える一方ではないでしょうか。 
          ところで、昔から、不良といえば 
          酒、タバコ、バイク、女と相場は決まっていますが 
          私がお目にかかった方たちのなかにも、 
          生涯現役の方がおられました。 
        そのなかでも先ず思い出すのは 
          もうすぐ八十歳に手が届こうかというおばあさんが 
          口から煙を吐き出しながら私にタバコを勧めたことです。  
          大学時代にタバコをくわえていた時期はあったものの、 
          ニコチンの臭いが嫌いで 
          すぐに止めてしまった私は最初その誘いを断ろうとしました。 
          しかし、何度もタバコの箱を向けられ、 
          次第に試されているように思えてきた私が 
          手を伸ばして一服し始めると 
          おばあさんはそれを見て満足そうな顔をされましたが、 
          そのときの私は不良に勧められて、 
          厭々タバコを吸わされる中学生の姿と 
          さほど変わらなかったかもしれません。 
          ロックといえば不良というイメージがありますが、 
          ローリング・スト−ンズのミック・ジャガーですら 
          禁煙しているのですから、 
          七十代で吸っている人は不良ばあさんの有資格者でしょう。 
        また、山道をバイクで走っているときに 
          スピードの出しすぎが原因で怪我をして、 
          三日前まで病院のベッドの上で寝起きしていたという 
          七十五歳のおじいさんがおられました。 
          しかし、それに懲りずにまたバイクに乗り始めたと仰る 
          そのお顔は嬉しそうで、怪我をしたことよりも 
          入院中にバイクに乗れなかったことを悔やんでおられるようにさえ 
          見えたことが印象に残っています。 
        そうすると、日本むかしばなしも 
          おじいさんは山へ芝刈りにおばあさんは川で洗濯へ、 
          といっていたのが、 
          おじいさんは山へバイクを乗り回しに、 
          おばあさんはタバコを一日二十本といった風に 
          時代と共に書き換えないといけないかもしれませんが、 
          このお二人のような人生の楽しみ方も 
          ちょっとカッコいいかな、と思った私でした。 
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