第19回
1食のためにボルドーから300キロ走る
前回(第18回)の続編です。
ミシェル・ゲラールの食事を終わったのが
深夜を過ぎていました。
おなかいっぱい、すっかり満足して
バスに乗ろうと庭園に出たら、
白い作業着を着た日本人の若いコックが
暗がりで待ち構えていたのです。
「こんな片田舎にこんなに沢山の日本人が来て下さって、
本当に感激しています」
とその青年は云いました。
Qさんは
「いつ日本に帰るのですか」と聞かれ、
「日本に帰って店でもひらく気でも起こしたら
僕のところへ相談にいらっしゃい」
といわれました。
「本当ですかそんなことおっしゃったら、
本気にしてしまいますよ」
青年が暗闇の中で叫んだのが、今でも耳の底に残っています。
とQさん。
山崎もそばにいて確かに聞きました。
あれから13年、
2000年9月ごろの「もしQ」にこんな見出しを発見。
「ゲラール直伝の店に行ってみませんか」
山崎は「あの青年だ」と直感しました。
果たしてそうでした。
Qさんは13年前のエピソードを紹介しながら
その青年がオーナーシェフ羽淵康彦
「グランデール」という小さなフランス料理店を開きました。
料理の天才ゲラールの直弟子、
だからウジェニー・レ・バンまで
出かけて行った気分を味わえます。
と紹介されました。
山崎は1ヵ月後、家人と出かけ満足しました。
勘定の時「Qさんの記事を見てきました」と告げたら
羽淵シェフが飛んできました。
ひげを蓄えたシェフには自信がみなぎり
もう13年前の青年の面影はありません。
その後乃木坂の友人と何度か楽しませてもらいました。
料理の達人に登場するなど
名声を高めつつあるようですが
低成長下、フランス料理店は前途多難な業界、
羽淵さんの健闘を祈ります。
Qさんは誠実な人です。
あの暗闇の中から叫んだあの青年との約束を果たされました。
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