第86回
本が読めて字が書ける・幸せ
この話、50年前の昔話とおもいますか。
20代の半ば、友人に誘われて、
瀬戸内海のある療養所へ慰問に伺いました。
岡山県の虫明という漁村からポンポン蒸気に乗りました。
行き先は瀬戸内海に浮かぶ、
小さいが緑でおおわれた美しい島でした。
やがて案内された図書室に足を踏み入れたとたん、
その異様な雰囲気に山崎はたじろぎました。
肢体ご不自由な視覚障害の方々が机に向っておられました。
が、顔をあまりにも机に、近づけすぎていました。
よく観ると、舌の先で本をなめておられるのです。
山崎は固まってしまいました。
しかし次の瞬間、それがわずかに残っている舌先の感覚で
点字本のボツボツの突起をまさぐり、
一心に読書をしている姿であることに気づいたとき、
山崎は言いようのない感動で、そこに立ち尽くしていました。
この病のために、愛する肉親と生き別れ、
たった一人でこの島にやってきた人たちでした。
やがて病が進み手足の感覚もなくなり
視覚を失うひとも多いのです。
それでもなお、読書を通じて
少しでも向上しようと励む姿は神々しくさえ見えました。
ふと静香詩の1篇が浮かびました。
嬉しいな 生きている
本が読めて 字が書ける
嬉しいな 生きている
まだまだ良いことがたくさん出来る
嬉しいな 可愛いものがいっぱい
可愛がってくれる人もいっぱい
ネクラの山崎は
「何だ、当たり前じゃないか」と呟き
「生きてることが、なんで嬉しい?」とふてくされていました。
「本が読めて字が書ける」ことが、
アタリマエではないことを知りました。
いま山崎は読者の皆さまと共に、HiQを通して、
Qさんの知恵をふんだんに学べる幸せを思います。
いまQさんがおもしろい、学ばなきゃソンソン、
あれ、また山崎のボヤキが始まった。
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