先生からいただいた言葉を忘れずに
邱永漢先生の急逝の報に接した際、
大きな悲しみが心のなかで広がるとともに、
頭の中でこれまで先生と過ごさせていただいた光景が
走馬灯のように駆け巡りました。
初めて先生にお会いしたのは2010年の8月。
このコラムの執筆を引き受けるに当たって、
東京の先生の事務所にご挨拶に伺ったときでした。
その時、先生は私の顔を見るなり、
「上海にいるんだって?」とお声を掛けられ、
それから「あそこで商売するのは大変だよ」などと、
ひとしきりご自分の経験談を面白おかしく披露。
最後に「一番新しい本なんだ」とご著書を手に取り、
見返しのところに
「間抜けにスキマは見えない」との言葉を添えられ、
ポンと渡されました。
その時のいたずらっ子のような表情がいまも忘れられません。
「上海で仕事をするなら、
人とは違った目線で物事を見ないとダメだよ」と茶目っ気一杯に、
私を諭しれくれたのです。
その後も先生には、
上海にこられるたびに食事などに誘っていただき、
「調子はどうですか」と優しい言葉をいただきました。
先生は常に前向きで
新しいことに意欲的に挑戦される方でありました。
業種にかかわらず中国の企業と積極的に連携・交流をはかり、
日中双方の経済の発展に努めてこられました。
こうした先生の考えと姿勢に触れ、
元気を分けてもらったのは私だけではないでしょう。
「これからアジアの国々は酷い目にあう。
大変な事になるだろう。でも、それも面白いね」
というのが先生の最後の言葉だったそうですが、
「やがて訪れるであろう経済混乱は次のチャンスでもあるんだよ」
と示唆してくれているように、私には受け取れます。
先生は最後まで未来に希望を見出す方でした。
先生に比べれば、私のできることなどたかが知れていますが、
先生からこれまでいただいた多くの言葉を忘れずに
精進を重ねていきたいと思います。
邱永漢先生、これまで本当にありがとうございました。
生前いただいたご恩に厚く御礼を申し上げますとともに、
心安らかな永久の眠りをお祈りいたしまして、
お別れの言葉とさせていただきます。
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