中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第58回
台湾は中国人にとってテスト・プラントみたいなもの(3)

長い間、他人に、あるいは
他民族に統治されることに馴れてきた中国人は、
統治する側の都合のいいように、自らすすんで膝を屈する。

たとえば、香港や台湾のテレビドラマで演じられる
中国の時代劇を見ていると、
皇帝が入ってくる前から家臣どもは膝をついて、
「奴才在」(奴隷がここにおります)と叫んでいる。
自分を奴隷と称して上ご一人の恭順の意を示す。

もしこれが中国人のしきたりだとすれば、
中国人は奴隷根性の持ち主だと悪態をつかれても返す言葉がない。
自分より上の者に対して奴隷をもって任ずる者は
自分が使う者に対しても同じように奴隷であることを要求する。

中国には使う人と使われる人しかいないということになると、
中国には上下の関係はあっても、
民主化の芽はどこにも見当たらない。

それは共産党の天下になっても全く同じことだから、
「人民のための…」などとうまいことを言っても、
基本的には上意下達の構造以外のものは
どこにも見当たらないのである。

そういう現状を見て、そもそも民主主義は
中国人に向いていないのだと悲観的な見方をする中国人も多い。
韃靼人や女真族をトップにいただいたら、
うまくいったという歴史もあるし、
昨今のようにカリスマ性のある独裁者がいるおかげで
国がうまくおさまっているという実績もある。

どうしてそういうことになるかというと、
民主主義でやっていくには
あまりに国が大きすぎるという見方をする人もある。
もしそうだとしたら、そこであきらめるということではなくて、
どうすれば民意を反映する体制を
つくりあげることができるかに向かって努力すべきであろう。

国興しは人づくりからはじまる。
国が大きすぎれば、権限を地方に譲ることもできる。
すでにそういうきざしは随所に見えている。
開放政策が推し進められるにつれて、
中国人が外部の人々に接する機会はうんとふえてきた。
外国に留学する若い中国人もふえているし、
海外からの投資を勧誘するために
外国に出かける官僚や企業界の責任者も激増している。

通信網の発展によって、世界中で何が起こっているか、
たちどころにわかってしまう時代にもなっている。
ヨーロッパの国々がどうなっているのか、
アメリカや日本の政治がどうなっているのか、
中国の内陸にいてもよくわかる時代になっているのだから、
中国人が自分らのおかれている立場と
外国を比べないということはまずあり得ない。

だからといって、アメリカで行なわれているような民主主義が、
そのまま中国人の間で採用されるとは私も思わない。
しかし、経済の長足の発展は
やがて政治思想に大きな影響をあたえる。

かつて官僚専制を地で行った台湾で経済が発展し、
GNPが急速に上昇しはじめると、
国民党の一党独裁は解消され、
人権を尊重する気風が生まれた。

台湾は中国人にとって
テスト・プラントみたいなものだが、
台湾で起こったことなら、大陸でも起こる。
もちろん、経済の発展がもたらすものだから、
今日明日に一挙にそこまでは到達できないだろうが、
シンガポールの李光耀が先鞭をつけたような
独裁的色彩の強い民主主義ならば、
あるいは抵抗が少なくてすむのではないだろうか。





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2012年10月4日(木)

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