第21回
貯蓄の目的をはっきりさせないと腰くだけに
財産づくりはまず貯蓄から始まる。
その貯蓄は倹約から始まる。
したがって、倹約の精神のない人に金の貯まらないことは、
歴代金づくりの名人たちの繰り返し強調しているとおりである。
しかし、何のために貯蓄をするのか、
なぜ貯蓄をしなければならないのか、ということになると、
万人に共通の道理があるわけではない。
たとえば、老後や病気のときに備えるとか、
失業時に備えるというが、
政府が代わりにその対策をしてくれているとか、
家に恒産があって後顧の憂いがなければ、
そもそも貯蓄の必要性を説いてもピンとくるはずがないのである。
反対に、どういうわけか生まれつき貯蓄本能の旺盛な人がある。
人に言われなくとも倹約で、
しっかり金を貯めこむ。
貯金通帳を見てひとり悦に入っている。
こういう人は、金を使うのが苦痛で、
予定外の出費があると、二、三日は夜も眠れなかったりする。
おそらく、不遇な環境に育って、
金銭に執着しなければならない何らかの理由があるのであろう。
だから、こういう人にとって、
「貯蓄のすすめ」は「釈迦に説法」みたいなもので、
そもそも私の書く物を読む必要もないのである。
なにしろ貯蓄は、毎月の収入の中から生活費の支払いをした結果、
手元に残った金のことではない。
いくら収入が増えても、地位が上がるにつれて、
支出の方も増えていくから、
「金は入っただけ出て行く」という原則が働く。
したがって、強固なる意志をもって、
貯蓄を消費に優先させるのでなければ、
とうてい金を貯めることはできない。
そのためには、まずなぜ貯蓄をしなければならないのか、
貯蓄の目的は何なのか、
自分に納得させなければならないのである。
むろん、貯蓄の目的は人によって違う。
老後のためという人もあれば、
家を建てるためという人もある。
また、独立資金をつくるためという人もあれば、
子供の教育資金に充てるためという人もある。
私は、この豊かな社会で、現代人が貯蓄に励むとすれば、
自分の目的をはっきり認識することが何より大切だと思う。
こういう考え方に立つと、
「三百万円ある人はどんな金の増やし方をしたらよいか」
「一千万円ある人はどうすべきか」といった発想よりも」、
「家をつくりたい人はどんな貯蓄法をしたらよいか」
「独立資金をつくりたい人はどうすべきか」、
また「退職金で老後を無事平穏に暮らすには
どんな財産対策をとるべきか」
といった目的意識からスタートした方が
より実際的だということがわかる。
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