第35回
定年を四十歳にして、その後の人生は自分で決める
人生八十年とみた場合、
六十歳の定年が要求通り六十五歳に延びたとしても、
以上のような問題はうまく解決できない。
そう考えたので、私はいっそ人生を二つに割って、
学校を出て会社勤めをしたら、四十歳で一応定年にして、
あとの四十年をどうするかは、
四十歳になったときに決めることにしたらどうだろうかと
提案をした。
二十何歳で就職をするときは、
人生の西も東もわからないし、
自分にどんな職業が向いているかだってわかるはずがない。
まして自分が偶然入社した会社の仕事が
自分の一生の仕事だと納得できるわけもない。
だから世間の常識に従って就職試験を受け、
どこかの会社に就職する。
入社した会社がたまたまいい会社で、
ここは自分の一生の仕事場と納得できれば、
そのままその会社に勤めればよいが、
会社の気風に合わないと思う人もあろうし、
業種や職場が肌に合わないと感ずる人もあろう。
そういう人は中途退職をすればよいが、
人が一人前になるまでには忍耐も必要なら、
妥協も必要である。
宮仕えをしておれば嫌なこともあるけれども、
自分で世間も知り、自分の才能や実カや
好き嫌いを心得るようになるのには、
少なくとも社会に出てから十年や十五年は必要である。
つまり男として一人前になり、
そのピークに達するのは四十歳くらいだから、
そこで退職金をもらい、
サラリーマンにケリをつければよいのである。
四十歳でもらう退職金ならせいぜい五百万円か七百万円だから、
払う側の会社も助かる。
あともし本人がいままでやってきた仕事に不満がなく、
会社側も本人を使うことに異議がなければ、契約制に切り換える。
本人に対する会社側の評価にもよるが、
それだけの働きがなければ、
それ相応の報酬はもらえないにきまっているし、
反対に有能だと思われれば、
切り換える前よりうんとよい条件を提示されることもあり得る。
いずれにせよ、退職金とか、
終身雇用の保障はないのだから、
自ずから常識的な給与水準に落着くだろうし、
その水準が若いときより
安くなるようなことはあまり考えられない。
最近、ジャーナリズムで報道されているのを見ると、
いろいろな企業がさまざまのリストラをやった結果、
四十歳をーつのピークにした給与システムを
検討しはじめているそうである。
私が三十年前に、三十年後を想定して、
四十歳定年制を提案したときは、
まださし迫っていなかったせいか、
ほとんど反応らしい反応がなかったが、
終身雇用制と年功序列給が崩壊寸前まで追い込まれてくると、
さすがに他人事ではなくなってきた。
このまま雇用の破壊が進めば、
人生を二つに割って、第一の人生と第二の人生を生きる生き方は、
日本のようなサラリーマン社会でも
次第に受け入れられるようになることが考えられる。
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