第42回
若いときの財テク道楽が身を助ける
私の知っている、さる経済研究所のトップの人が、
六十歳をすぎてから、ふとしたはずみで美女のとりこになった。
男が還暦をすぎてから「老いらくの恋」におちいっても
別段珍しいことではないが、その人は若い頃、
勉強ばかりしていて恋愛とか
お遊びの経験がほとんどなかったので、
自分と三十歳以上も年齢の違う若い女性と昵懇になると、
前後のみさかいがつかなくなってしまった。
俗に「タ闇から降り出した雨と四十男の浮気はなかなかやまない」
と言われている。
人生五十年といわれた時代の四十男だから、人生八十年時代なら、
さしずめ六十歳といったらいいだろう。
若い時分に、異性のことであれこれしくじりをやっておれば、
それなりに経験を積んでいるし、
冷静な目で自分のやることを見ることもできる。
ところが、若いときにそういう経験を全くせず、
老年期に入ってから熱に浮かされるようになると、
どこまでが彼女にしてあげられることで、
どこからは禁制区かという一線が引けなくなってしまう。
彼女の職業が全然違っていて、遠くからアドバイスしてあげたり、
金銭的に援助してあげる程度であればあまり問題はないが、
何せ仕事の上で知り合った仲だから、
たちまち仕事の中に割り込んでくる。
自分が好きになったくらいだから、
もちろん相手の才能を実力以上に評価する。
新しい仕事は是が非でも彼女に担当させようとする。
研究所の役員でも何でもないのに、
いつの間にか会議にも列席することになり、意見を聞かれるし、
その意見がまた尊重される。
長い間、先生の右腕左腕をやってきた部下たちが
面白かろうわけもなく、
あっという間に幹部の大半が辞表を出してしまった。
たまたまそのなりゆきを見ていたうちの娘が、
「パパ、男の人って若いときに
少々遊ぶぐらいでないと駄目ですね」
と言ったのには私のほうが思わず目を白黒させてしまった。
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